コシナ・フォクトレンダーブランドから富士フイルムXシリーズ用のNOKTON50mmF1.2 X-mountが9月7日(木)に発売された。フォクトレンダーブランドのXマウントレンズはこれで6本目となり、かなり充実したラインナップへと成長を遂げている。

コシナ フォクトレンダー NOKTON 50mmF1.2 X-mount 主な仕様

●焦点距離:35mm判換算約75mm相当
●最短撮影距離:0.39m
●最大撮影倍率:1:6.0
●レンズ構成:8群9枚
●最小絞り:F16
●絞り羽枚数:12枚
●フィルターサイズ:58mm
●大きさ・重さ:φ約63.9×49.0mm・290g
●付属品:フード 

公式アナウンスでは「NOKTON35mmF1.2 X-mountと同等の描写力」

ほぼファーストショット。X-T5との組み合わせではピントは掴みやすかったです。これは拡大せずにMFしたもので、ご覧の通りバッチリ。とはいえビビって1段絞ってますよ。さすがに開放絞りは拡大した方が安心でっせ。
■絞り優先AE(F1.8 1/7000秒) ISO250 WB:オート ※フィルムシミュレーション:PROVIA / スタンダード

フルサイズ換算で約75mm相当画角の本レンズは、全長49mm、重さは290gとコンパクトなサイズ感を実現しているのが特徴のひとつ。他のXシリーズ用フォクトレンダーレンズと同様に電子接点を持っているので、電気通信対応ボディとの組み合わせでは撮影画像へのExif情報記録やAE/AWB、IBIS動作やフォーカスチェックなど、純正レンズと同等の使い勝手があり、安心感がある。

注意点としては、AモードとMモードでの撮影となるところで、X-S20などのPSAMモードダイヤルを持つ機種との組み合わせたい場合には、モードダイヤルのポジションに注意しておきたい。
また通信非対応の機種であっても、レンズ無しレリーズを「許可」にしておけば、実絞りによる絞り優先AEとマニュアルでの撮影が可能だ。

公式の紹介映像では「NOKTON35mmF1.2 X-mountと同じ描写を50mmで提供することをコンセプトに開発した」とアピールしているので、実写が楽しみである。

NOKTON 50mm F1.2 X-mount 製品紹介

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相変わらず高いビルドクォリティ、ニンマリできる操作感!

コレ見た時に「何処かで見た巨匠の写真と似てるシーンだ!」と思って急遽巨匠の魂を降臨させた気分になってF2.0でパチリ…したら、思ったよりもシャープに写ったので開放で撮り直ししました。撮ってる時の感想としてはNOKTON35mmF1.2 X-mountより全然シャープじゃねーか、って思った次第。
■絞り優先AE(F1.2 1/15000秒) マイナス0.3露出補正 ISO500 WB:晴天 ※フィルムシミュレーション:ACROS + Yフィルター

アルミ製鏡筒の質感が高く、デザインも相変わらず素晴らしい。Xマウント用のNOKTONシリーズではNOKTON35mmF1.2が最もトヨタ好みも、本レンズもナカナカに「コレだよ、コレ!」と前のめりになってしまいました。

サイズ的にはシグマの56mmF1.4 DC DN | Contemporaryと近く、重さについてもシグマが280gなのでほぼ同等。しかし、手にしてみると本レンズの方が僅かに軽く感じられるのが面白い。
ピントリングの操作感と絞りリングの操作感についても申し分なく、上質感があります。

付属のフードはねじ込み式で、フード装着状態でも付属のΦ58レンズキャップが付けられるが、ちょっぴり外れ易い気がした。

撮影を続けるほどに「萎えポイント」を発見…。

ISO500の粒状の具合がハマるかも…? と実験中の1枚。レンズレビューにあるまじき振る舞いですが、そういった実験をしたくなるのもフォクトレンダーの魔力でしょう。F2.0から2クリックずつ絞りを変えて、ちょうど良い感じだったのが、このシーンではF3.2でした。そうやって探る楽しさがあるよね。
■絞り優先AE(F3.2 1/2000秒) ISO500 WB:オート ※フィルムシミュレーション:クラシッククローム

撮影は例によってX-T5との組み合わせです。
フォクトレンダーだから、どうせ褒めてばっかりでしょ? と思った皆さん。ちゃんと気になるところがありましたよ。

手の大きな筆者の場合、本レンズのコンパクトな全長が災いして、縦位置撮影のMF時にフードが指に乗っかりやすいことが気になりました。
一体何のことを言ってるの? と思うかも知れないが、筆者は縦位置撮影時にはグリップを下にし、タイトに構えるんです。すると、レンズフードが左手人差し指に乗っかる場面が多い。こうなるとMF時にフードが上方向に押される、つまりは操作感が損なわれ、スムースなピント操作が得られないのです。
これがNOKTON50mmF1.2 X-mountの萎えポイントです。

グリップ上の構えであったり、左腕を開くように構えるならばこの不都合は生じない。さらにフード無しでの運用であったり、意図的にレンズの付け根付近を保持するなどすれば、このストレスからは解消されます。もちろん体格や手のサイズによっても違ってくるはず。しかし筆写の運用のおいては気になった次第で。

描写特性のコントロールが出来るのは実に楽しい!

フジは1/8000秒以上のシャッター速度が選択できるのが良いよ。他社機はそれが出来ないのがほとんど。F2.0まで絞ればキレッキレに、という状況を撮ったつもりでしたが、勢い余ってF2.2になっています。
■絞り優先AE(F2.2 1/20000秒) マイナス0.3露出補正 ISO500 WB:晴天 ※フィルムシミュレーション:ACROS + Yフィルター

公式動画のアピールを見たこともあり、NOKTON35mmF1.2の写りを思い出しながら撮りました。感想は「35mmF1.2より良いんじゃね?」
全体的には良く似た雰囲気の描写だし、いわゆる「絞りの利く」レンズであるところも同様。F4.0まで絞れば相当シャープだけど、開ければ柔らかくなる。撮影距離との組み合わせでもこうした描写特性をコントロール出来るのは実に楽しいですね。

細かいことを言うと、絞り開放・至近端シーンに限って言えば、収差量は絞り0.3〜0.5段程度抑えられているように見え、中距離以遠でも「コッチのほうがキレが良いぞ」というのが撮影直後の印象です。

全体的にはキレだけではなく柔らかさと繊細さもあって、撮影していて非常に楽しいレンズだと思います。軽くてこのくらい写ると気持ち良いのは間違いないですからね。

気が付いたら接写性よりも、中~望遠スナップの面白さを再発見。

近景でもNOKTON35mmF1.2 X-mountより写るじゃねーか、って思ってた時の1枚。事後にまとめて見てると、雰囲気がすごく似ているように見えてくる不思議でした。性能はこっちの方が良いと思うのだけれども…でも似てるのよね。
歪曲はほぼ無い感じです。強いて言えば、微妙に糸巻き型かな?ってくらい。
■絞り優先AE(F2.0 1/4400秒) ISO250 WB:オート ※フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ

最短撮影距離が0.39mと、このクラスとしては接写性が高いレンズなので、当初はもっと寄りの写真を多く撮るつもりでした。
実際、それなりには撮ってはいるのですが、換算75mm画角という独特の距離感が心地好く、中望遠スナップの面白さに目覚めてしまい、中〜遠景ばかり撮る始末。言ってしまえば標準ズームのテレ端と同じような画角なのですが、コンパクトであることと明るいことで、世界がちょっと違って見えることに新鮮な驚きがあったんです。

個人的な意見にはなりますが、中望遠レンズはフットワークを活かすことが求められるレンズだと考えています。ま、どのレンズもそうなのだけれども。どちらにしろ、フットワークを活かすにおいてはレンズの軽さが武器となります。

メイプルソープのアフリカンデイジーって写真を意識というかオマージュしてパチリ。全然違うのだけど、トヨタ的には背景の光の感じが上手くメイプルソープ感を出せたと思って気分良くなった時の1枚です。憧れの巨匠の気分にさせてくれる楽しいレンズだね。
どうでも良い話は置いといて、自然で心地良い立体感が気持ち良いレンズだね。「オラついた」下品な立体感じゃないところが実に老獪なチューニングです。「オヌシ…写真が好きだな?」って感じ。鑑賞するプリントサイズとかも吟味して光学設計しているのだと思いました。
■絞り優先AE(F1.4 1/1700秒) ISO250 WB:オート ※PRO Neg.Std

作画意図とフットワーク、レンズの性格(絞りが利く、など)を組み合わせて撮影を楽しんでみると、被写体の色々な見え方に気付けます。
「この距離でこの絞りだとこんな写りになるのか」みたいな発見と、自分が動くことで対象の見え方が変わることの楽しさ、だね。

こういう発見を得た時の気持ち良さと、その発見を活かせた時の達成感が心地好くて私は写真をやってる気がしますが、フォクトレンダーってそういう楽しさを再確認させてくれる感じがします。

撮影後の興奮から少し冷静になるために、少々時間を開けて本稿に取り組んでいますが、改めてNOKTON35mmF1.2の写真と見比べてみると、撮影日直後よりもグッと似ているように見えるのが不思議でした。

確かに細部は違うけれど、全体的な写りの雰囲気で言えばほぼ双子。ニュアンス的には画角だけが違うレンズって感じです。
仮にNOKTON35mmや23mmを持っていて、本レンズに心惹かれてしまった場合は間違いなく運用に困っちゃうよね。
「レンズ交換する時間が惜しい。こうなったらカメラを増やしてしまおうか? という誘惑に一体どれだけの人が抗えるのか、甚だ疑問である」って意味だよ。困るよね。