ニコンからZ fが登場した。まるでフィルムカメラのようなクラシカルな外観は、Z fc同様、往年のフィルムカメラ“FM2”をベースとしたアイコニックデザインを取り入れたもの。マニュアルのカメラを知っている人にとっては「カメラといえばこのカタチ」と馴染みのあるデザインであり、デジタル世代のユーザーにとっては新鮮に感じられるかも。

新しいピクチャーコントロール

左上からスタンダード、モノクローム(右上)、フラットモノクローム(左下)、ディープトーン(右下)。素のモノクロームは、スタンダードから彩度を抜いたものだけど、正直硬過ぎる。フラットモノクロームはニュートラルの彩度を抜いたものと近似していました。でもとても扱いやすい系でお気に入りです。ディープトーンはいわゆるモノクロって感じの再現で、こちらも使いやすい。NX Studioで従来機でも楽しめるようなので、是非一度試してみて下さいね。

フラットモノクローム[FM]については、フラット[FL]のモノクロ版かと想像していたが、実際にはニュートラル[NL]のモノクロ版といった印象。従来からあるモノクローム[MC]はスタンダードから彩度を抜いたもので、シーンによってはコントラストが高すぎて、個人的に良い印象を持っていなかった。が、今回のFMはシーンを選ばない扱い易さがあり、これをベースに自分好みに仕上げるのも良さそうだと感じた。

ディープモノクローム[DM]についてはシャドー側が軟調、ハイライト側が硬調となっており、画面全体の印象は暗めになる。が、むしろ黒白写真らしい表現を手軽に楽しめそうに感じたので、こちらも好印象。

EVFの覗き心地は良好。画質についても、特に高感度ではZ 6Ⅱと比べて少し良いように感じられた。(とは言え、今回試用した個体は製品版ではないので製品版を待ちたいところ)

コシナ軍団が幅を利かせる予感…。

FTZ Ⅱ + NOKTON55mmF1.2 SL Ⅱs
ボディのツヤ感とマウントアダプターのつや消し塗装が合ってないよね。でもカニ爪といい、希薄な統一感といい、全体的に違法建築感があって可愛く見えてきます。サードパーティで出してきそうだよね。オールドニッコールとデザインの整合性のあるマウントアダプター。

せっかくのクラシカルな外観ということで、今回は純正レンズのみならず、VoigtlanderのAPO-LANTHAR 35mmF2 Z-mount、さらに純正アダプター FTZ Ⅱを介してFマウントのMFレンズ・NOKTON55mmF1.2 SL Ⅱsとの組み合わせで撮影もしてみた。

ここで気になったのは、Z fcと同じく「MFを楽しむ事に前のめりではない仕様」が踏襲されてしまっているところ。
今回はAE-Lボタンに拡大表示を割り当ててのMF撮影となったが、拡大部を移動する際、握りの悪いグリップに注意しながらフレキシブルとは言い難い十字キーを操作しなければならなかった。

APO-LANTHAR 35mmF2 Aspherical
悪く無い気はしますが、NOKTON50mmF1.0の方がもっとマッチしたね。ただ、サイズ的にはこちらが良い感じです。

タッチパッドでAFポイントを移動するような感覚で拡大部の移動が出来れば、かなり印象は良くなったのだか…。クラシカルな外観とモノクロームの絵作りにコダワリを見せてはいるが、ユーザーファーストという印象が希薄に感じられた。せめてジョイスティックがあれば…。

もちろんMFレンズであっても被写体認識を使えば被写体部を拡大してくれるのだが、「そうではないシーン」の快適性は? という視点についても開発時に忘れないでおいて欲しい。

一番気になったのは、全体的に操作性が「ヨロシクない」ところ。少し悪意のある表現となってしまうが、真鍮製ダイヤルを楽しく操作できたのは最初の頃だけで、すぐに使わなくなってしまった。

そもそもデザインで勝負のカメラなのだから、もっとちゃんとやろうや?

筆者が頻繁に操作するのは露出補正ダイヤルや前後の電子ダイヤル。露出補正について。当初は専用ダイヤルを使っていたが操作性が気になり、結局は後ダイヤルに割当てることになった。が、その後ダイヤルの操作性も良いとは言えないものなので、露出補正の都度「チッ」と思いながら撮影していた。

もちろん、どうすれば快適なのか? をできうる限り試行錯誤してみた。が、結局はダイヤル操作などせず、カメラ任せで撮影するのに適したデザインなのだと結論付けることに…。これはこれでアリなのかもしれないが、ニコンのカメラとしては、もったいなくも残念でならない。

期待の新ピクコン。パナソニックのL.モノクロームをじっくり研究したのかな?って感じがしなくもないけれど、とても良い感じですよ。これなら撮って出しで遊べそうだね。
■Voigtlander APO-LANTHAR 35mmF2.0 Aspherical 絞り優先AE(2.0 1/160秒) マイナス1.0露出補正 ISO800 ※クリエイティブピクチャーコントロール:ディープトーンモノクローム

こだわりの真鍮製ダイヤルについて。真鍮って比重が重い(アルミの約3倍)ので、それが影響しているのかボディの上側が重く感じられ、なんとなくバランスが悪く感じられるのも筆者的にはマイナスであった。

主観的な話になるが、Z fは、Z 6などが持っていたエルゴノミクスデザインを捨て、愛らしさを感じるデザインを得たと感じている。が、それに対して失ったものは遥かに大きいような気がする。

細かいことを言えば、ボディのフォントもバラバラで統一感が無いのも…。機種名をボディ前面に入れなければ、もっと印象は良くなったと思う。往年のFMやFE、そう言えばF2にもボディ前面には機種名は入っていなかった。
約30年、NewFM2ユーザーを続けている筆者としては、ダイヤルが妙にペンタプリズムに寄っているところ、マウント部がボディのど真ん中に来ていることに違和感を覚える。

我ながら大変ネガティブなコメントを繰り返しているが、このご時世にこうした趣味性に振ったカメラが登場することは心から歓迎している。さらに言えば、よくぞ登場してくれた! と、嘘偽りなく思っている。

が、それでも「ヘリテージデザイン」とアピールするくらいだから、デザインが看板なのは間違いないはず。であれば、もっと愛を注いでほしい、こだわってほしいと思う。

ここまであげつらった「あれ、コイツ愛されてないのかな?」って感じるポイントが多いと、ポリシーではなくエゴに付き合ってるような感じがしてしまう。ポリシーとエゴは表裏一体と言えば、きっとその通りなのかも。

写真という趣味性の高い分野においても、とりわけネチネチと言われそうな部分に切り込んだカメラであることは十分に承知している。が、そうは言っても道具としての本質的なところには、もう少しだけシッカリとしたポリシーでもって作り上げて欲しかった。

チマタの絶賛レビューは「愛のなさ」の表れ?

NOKTON55mmを返却する前だったので、試してみましたとも。移動の車中では「絶対に楽しいだろう」って期待を膨らませていたのだけれど、ボディのグリップが良くないのと、ダイヤル類の操作性が良くないから、楽しいって感覚が薄かった。写りは楽しいのだけれどね…。そういうところだぞ!!
■Voigtlander NOKTON 55mmF1.2 SL Ⅱs + マウントアダプター FTZ Ⅱ 絞り優先AE(F1.6 1/4000秒) プラス0.3露出補正 ISO100 ※クリエイティブピクチャーコントロール:ブリーチ(適用度60%)

巷ではどうせヨイショレビューばかりが公開されるだろうから、心を鬼にして「お小言レビュー」となった。それでも愛のない振る舞いはしていないつもりだが。

最後に。カメラ性能の進歩自体はとても良いと感じだ。とりわけ「フォーカスポイントVR」は興味深い提案だ(正直、その効果は良く分からなかったが)。新ピクチャーコントロールも楽しめた。こうした機能が次のファームアップでZ 8/9にも採用されるのかと考えると、期待は高まる。

AF関連は新エンジンの威力が絶大で、やっとお勧めできる性能のZが登場したことを心から喜んでいる。繰り返しになるが、従来機でも過不足なく撮ることはできた。しかし、他社機のようにあらゆるシーンに対応しうるか? というと何も言えなかったので。

Z 8はどうなんだ? って声があるかも知れないが、ごく普通の一般人は50万超えのカメラなんて買わないので。頑張って背伸びして、それでもこの30万円くらいが限界だと筆者は思っている。

バッテリの保ちについて。製品版ではないので、あくまでも参考値となるが、デフォルトの省エネ設定で平均5.5コマ/%(単写)であった。となると、600コマ撮るのはちょっと難しいかも知れない。

オートエリアAFがついに賢くなりました。規則的なパターンで明るいものとかコントラストの高いものを写し込むと、ZのオートエリアAFは結果が安定しなかったけれど、これなら常用できるね。
■Z 28-75mm f/2.8 絞り優先AE(F2.8 1/320秒) プラス0.3露出補正 ISO450 ※ピクチャーコントロール:ニュートラル