CP+2023にて参考出品されていたコシナ・VoigtlanderブランドのXマウントレンズULTRON 27mm F2。フルサイズに換算すると約40mm相当画角となる、パンケーキタイプのコンパクトな逸品だ。CP+から続報を心待ちにしていたレンズの1つだったのですが、今回ついにテストすることができました!

ULTRON 27mm F2 Xマウント 主な仕様

●焦点距離:35mm判換算40mm相当
●最短撮影距離:0.25m
●最大撮影倍率:1:6.7
●レンズ構成:4群6枚
●最小絞り:F22
●絞り羽枚数:10枚
●フィルターサイズ:43mm
●大きさ・重さ:φ59.3×23.5mm・120g
●付属品:フード

全長24㎜&重さ120g…ほぼ空気ですね。

X-Pro2と組み合わせることでX-Pro2が真の姿へと覚醒します。楽しいし格好良い。気分の問題かも知れませんが、X-T5の再現性よりもX-Pro2の再現性の方がこのレンズに合ってる気がします。
■フジフイルム X-Pro2 絞りF2.8 1/3500秒 ISO400 ※フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ

外観からも分かる通り非常に小さなレンズで、全長は約24mm。マウント面から僅か指1.5本分しかありません。当然ながら操作は若干窮屈ですが、ピントはリングではなくレバーで操作するタイプなので慣れれば扱い易く、操作も迅速に行えます。

ご多分に漏れず、富士フイルムXシステムカメラに最適化されているので、絞りリングやフォーカスリングの回転方向は純正と同じというコダワリは、狂気すら感じさせられてトヨタは大好きです。

重さは約120g。レンズが150gを切ると、実質的に空気とほぼ同等です。というのも、いつもの機材にプラスしても誤差の範囲内。バッグに秘めた存在感を重さから認識することが困難になるからです。
ちなみに同じ焦点距離の純正レンズXF27mmF2.8 R WRは驚異の84g。こちらはレンズを装着した方が軽く感じますので、重さは実質的にマイナスです。

レンズ情報はしっかりボディに伝わっているので安心!

試用レンズが届いた1時間半後に撮った1枚で、4月中頃だったりもします。もう既に魅力にかなりヤラれていました。糸巻き型の歪曲がちょっぴりありますが、個人的には全く気になりません。描写に立体感あるよね。
■フジフイルム X-T5 絞りF2 1/8500秒 ISO250 ※フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ

フォクトレンダーブランドのXマウント対応レンズは既にNOKTON23mm、NOKTON35mm、MACRO APO-ULTRON35mmの3本が発売されていますが、それらのレンズと同様に富士フイルムがコシナにレンズ情報を開示することによって、高い信頼性でのカメラとレンズの通信を実現していることがアピールされています。

実際に筆者は過去にこの3本をテストしていますが、電気通信対応のボディとの組み合わせではExif情報やAE/AWB、IBIS動作など純正レンズと同等の安心感があったので、今度のウルトロンにも同じ安心感を期待しても裏切られることはないでしょう。
ちなみに通信に対応していないボディでも、実絞りによる絞り優先オート撮影とマニュアル撮影が可能なので心配無用です。

X-Pro2との絶妙なマッチングは前世から決まっていた!?

楽しんでばかりではイカンと描写特性のチェックで撮ったもの。至近端よりも15cmくらい余裕があったと思います。全体的に素直な描写ですね。強いて言えば周辺部の後ボケがうるさく見えなくもない、かな。個人的には可愛いです。
■フジフイルム X-T5 絞りF2 1/1100秒 ISO250 ※フィルムシミュレーション:PROVIA / スタンダード

外観デザインの素晴らしさについては、語るだけ野暮。金属鏡筒の高い質感についても然り。実用可能な工芸品の如き仕上がりに、高い満足度が約束されています。
付属の金属フードはドーム型(いわゆるフジツボ)で、フード用にねじ込みによる金属製のキャップと、フード無しで使うためのプラのキャップが付属します。

レンズのカラーリングはブラックとシルバー。今回試用したのはシルバー鏡筒ですが、フードとキャップは共通でブラック仕上げとなります。

もうね、眺めているだけでも気分が高揚してきます。X-Pro2とドッキングすると初対面とは思えないピッタリ具合に運命的なものを感じさせられ、ニヤニヤが抑えられません。似たような運命的な出会いはNOKTON35mmF1.2の時にもありましたが、今回の方がピッタリ度は上。X-Pro2と本レンズは、前世を共にしたのでしょう。

妄想はこのくらいにして、X-T5と組み合わせて撮影に。
経験上不具合が出そうなイジワル操作を一通り試してしてみましたが、純正レンズと同様の挙動以外に気になるところはなく、純正相当の安心感があります。
IBISはもちろん、フォーカスリングの操作と画像の拡大が連動するのでMFしやすいと思います。

ちなみに非対応のX-Pro2との組み合わせでは、EXIF情報にレンズ名と撮影絞りが残らないことと、パララックス補正やフォーカス操作による画面の拡大連動がなされないことなど、動作に制限がありますが後ダイヤル押下で拡大はできるので些細な問題だと思いました。

開放からシャープな描写も、絞りと撮影距離で遊べます。

少し絞っても良かったのだけど、周辺を落とし込みたかったので開放で攻めています。撮影時にそういう選択する楽しみとか、描写を予想して撮る楽しさがあるよね。イメージ通りに撮れれば達成感もある。日陰も利用したので、特に画面の下部の落ち込みが大きく見えますが、それはかりそめの姿です。
■フジフイルム X-T5 絞りF2 1/1700秒 ISO250 ※フィルムシミュレーション:ETERNAブリーチバイパス

描写の傾向は、絞りと撮影距離で色々な表情を見せてくれるNOKTON35mmF1.2とは違っていて、開放からワリとシャープに解像します。と言っても、こちらは開放F2のレンズであり、またNOKTONとULTRONという名称からも分かるとおり、レンズのコンセプトがそもそも異なっているので比較対象としては不適当かも知れません。

画面の中心部は開放絞りから結構な解像感を楽しめます。至近側で少し柔らかさが出てくることと、周辺の描写は絞りと撮影距離で多少の変化があるように感じられました。

純正のXF27mmF2.8は撮影条件を選ばない優等生タイプでソツなく安定した描写を楽しめるレンズでしたが、本レンズは遊び心がありながら優等生らしい振る舞いもできるので、道楽の相棒として魅力的です。

ピーキングについてはX-T5とX-Pro2で試してみましたが、どちらも「使えるだけありがたいと思え」というレベル。結果が伴うシーンもあるけれど、全然ダメなシーンもありました。これがカメラの実力なのか、通信の都合なのか原因は分かりません。

ま、ボケたらボケたで面白いので、別に腹は立ちませんでした。これがAFによるピンぼけだったなら、それこそちゃぶ台ひっくり返してひと暴れするところだったね。MFは心を穏やかにするので、精神安定剤としても有効です。

フジのAE制御にちょっとイラっときました…。

フィルムシミュレーションの設定でコントラストを高くして撮っています。それでもボケは汚く見えません。ザワザワした感じに撮りたい場合はちょっと工夫が要るかも? でも艶っぽくも撮れるし、ドライにも撮れる。自由自在って感じが良いね。X-T5と組み合わせた感じも良いのだけれど、1枚目のX-Pro2との組み合わせの方が表現が好きなんだよね。ちなみに、設定はまるっきり同じです。
■フジフイルム X-T5 絞りF2 1/1250秒 ISO400 ※フィルムシミュレーション:ACROS+Rフィルター

一通り撮り終わってから作例写真家の肩書を下ろし、趣味人としてX-Pro2に組み合わせて心のままに撮ってみたら、これがもう楽しくて楽しくて。バッグにはX-T5とα7R IVとレンズ数本が入っていましたが、その重さを忘れるくらいには夢中になれました。もうX-Pro2に溶接して良いね。

フィルムシミュレーション:ACROSでX-T5と同じ設定で撮っていますが、Pro2の方が雰囲気が良く見えるというか、好みでした。具体的にはT5の方が少し硬調でメリハリがあるように見え、Pro2はいい具合に掠れてる感じ。

文句があるとすれば1点だけ。レンズというよりはボディの制御についての不満になります。
X-T5でも撮影の楽しさは約束されていますが、黒バックで明るいものを撮りたい時に、MFで拡大されるとボディのAEが敏感なので拡大表示された白い部分にAEが引っ張られて表示が暗くなってしまう。これがイライラしました。拡大時にAELボタン押下で拡大前の露出になるけど、そもそもこの仕様は間違ってると思いまっせ。

あと、最新レンズの楽しくないところに、どんな条件でもソツなく写るという、本来は称賛されるべき高性能さが挙げられます。
筆者のような趣味をこじらせている人間にとっては周辺部の描写は些細な問題で、流れようが滲んでいようが周辺光量が落ちていようが心地良く見えればそれでいいワケです。

ところが最新レンズは本来の鑑賞条件では注目しないであろう周辺部がシッカリくっきり写ることで、ふとそちらに眼が泳いでしまうことがあります。
ウデが足らないと言われれば反論出来ませんが、撮り方見せ方含めてこれまでとは少し違う気の配り方を頭の片隅に留めておく必要があり、ちょっとだけ夢中になれない瞬間があるワケで。

どのレンズもそんなだから選びようがないのよ。なのでコシナさんのように性能と味わいを上手くバランスさせてくれたレンズを用意してくれるってのはとても嬉しく感じています。