サイトロンジャパンが取り扱うLAOWAブランドの超ワイドレンズLAOWA 10mm F4 Cookieが2022年11月に発売された。このレンズはAPS-Cフォーマットのミラーレスカメラ用に最適化されているが、まさかのパンケーキ(ネーミングはさらに小さいという意味からクッキー)仕様だ。

LAOWA 10mm F4 Cookie 主な仕様

●焦点距離:35mm判換算15mm相当
●最短撮影距離:0.1m
●最大撮影倍率:0.15
●レンズ構成:8群12枚
●最小絞り:F22
●絞り羽枚数:5枚
●フィルターサイズ:37mm
●大きさ・重さ:φ59.8×25mm・約130g
●マウント:キヤノン RF、ニコン Z、ソニー E、 Lマウント、フジ X
●付属品:-

超ワイド&MFのパンケーキレンズ

特記するにしては少々言葉を選んだ感じになっているけれど、細かく分類していくとしっかりした特徴があるし、超ワイドのパンケーキレンズ自体は稀有な存在。
対応するマウントはキヤノンRFマウント、ニコンZマウント、ソニーEマウント、ライカLマウント、フジXマウントの5つに対応するが、イメージサークルはAPS-Cである。

近接性は10cm。レンズ先端からおよそ6cm弱まで寄ることができるのも特徴のひとつ。最大倍率も0.15倍までイケるのも嬉しいポイントだ。ちなみにミラーレスのAPS-C用の魚眼レンズではない単焦点レンズとしては、最もワイドなレンズとなる。

今回はフジXシリーズ用でテストを行った。フジ用のワイドレンズではXF8-16mmが最もワイドなレンズとなり、10mm画角をカバーするレンズとしてはXF10-24mmなどもあるので、本レンズを選択する理由としては「パンケーキレンズ」であることが適当だろう。

公式ページの紹介にはディストーションを抑えた設計であることがアピールされているが、さてその実力は?

フレア・ゴーストはご覧の通り特徴的な描写だけど、試しに作画として使えないか頑張ってみた1枚。
■フジフイルム X-T5 絞り優先AE(F5.6 1/550秒) マイナス1.3露出補正 WB:雰囲気優先AUTO ISO250 フイルムシミュレーション:ACROS+Rフィルタ

超ワイド=パンフォーカスにあらず!

1段絞っても周辺光量は少し落ちてます。が、10mmのレンズとしては上々なのでは? 個人的にはもう少し落ちても良いかも。分光特性というかカラーバランスは純正レンズとは明らかに違う。
■フジフイルム X-T5 絞り優先AE(F5.6 1/480秒) マイナス0.3露出補正 WB:雰囲気優先AUTO ISO250 フイルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

今回組み合わせたボディはX-T5。フジの純正レンズと比べてピントリングの回転方向は逆で絞りリングは同一。質感自体はソコソコも、リーズナブルな中華レンズとは一線を画すビルドクオリティである。妙なガタも無く好印象。100g台のレンズだとバッグに忍ばせてもその存在を忘れてしまうくらいに軽いので、普段のレンズに1本追加して持ち歩くだけでも世界が広がったような気がして何だか楽しい。

実焦点距離が10mmで画角が15mm相当画角だから、まぁf/5.6~8に絞っておけばズボラにピント合わせしても大丈夫だろうと思って撮り始めたら…思い切り躓きました。APS-C・40MPはピントがシビアで被写界深度なんて概念は通用しません。

このレンズ、公式がアピールがブラフでも大げさでもなく、歪まないんじゃね? と思わされた1枚。近距離でも歪まない。キリッと写したかったら40MP機よりもX-E4とかX-T4世代の26MP機とかの方が良いかも知れない。
■フジフイルム X-T5 絞り優先AE(F8 1/750秒) マイナス0.7露出補正 WB:雰囲気優先AUTO ISO250 フイルムシミュレーション:ACROS+Rフィルタ

何故にズボラで行こうとしたのか? というと、超ワイドレンズはピントが掴み難いのよ…。X-H2系の576万ドットEVFだったら話は別だったのかも知れませんが、369万ドットのX-T5だと、ちょっと真剣にピント合わせをする必要がありそう。

で、撮影中に気になったのはX-T5、というかXシリーズのAEの仕様。ピント拡大表示すると、その拡大状態で測光しちゃうので背景が暗いシーンで被写体が明るい条件だと、構図と露出をキメてピントを合わせようと拡大するとAEが引っ張られて被写体が真っ暗表示…。

拡大中にAEロックボタン押せば良いって話ではあるけど、これは使い難いと思った。とくにX-T5はAEが輝度に対して敏感なこともあって、イライラのわんこそばが高く積み上がっていく…。

風景とか都市景スナップならそこまでイライラはしないと思うが、接写シーンだと快適に使いこなすには工夫が要ると感じた。

ピント合わせるのに拡大させると露出が変わってイライラしていた時の1枚。拡大状態で撮るのと拡大解除して撮るのとでは実際の露出も違うからね。…というX-T5の仕様に対する文句は置いといて、ローファイに撮ってみようかと思って試行錯誤してみた。フレア・ゴーストの描写が面白い。
■フジフイルム X-T5 絞り優先F4 1/200秒 WB:雰囲気優先AUTO ISO250 フイルムシミュレーション:ノスタルジックネガ

写りについては、歪曲の少なさに驚いた。非常に軽微な樽型だけど、この程度だとほぼ気にならないだろう。逆に、もう少し歪曲あった方がシーンによっては自然に見えるかも? と心配になるくらいに真っ直ぐ写る。

遠景では結構シャープだけど拡大観察するとそこまでギンギンに解像しているわけではない感じの写り。このくらいの写りだと輪郭部に妙な縁取りが出たりしないので、豊田的には非常に良い感じ。が、何が何でも拡大して観察したい人にはキレ度的な満足度は高くないか知れない。

開放絞りかつ至近端です。超ワイドだから至近端での周辺部はそれなりって感じ。でもレンズサイズから想像したよりは良い感じに写っていると思いました。
■フジフイルム X-T5 絞り優先F4 1/60秒 WB:雰囲気優先AUTO ISO500 フイルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード

接写時の背景ボケについては、超ワイドレンズとしては悪くないと思った。逆光耐性についてもまずまず…だけど、光源の入れ方によっては特徴的な光芒が出る。

超ワイドレンズとしては比較的手頃ではあるが、ノールックで買うには少し気合の要る価格。また利便性という点ではXF10-24mmみたいなレンズの方が良いだろう。つまりは楽しいけれど、使い手を選ぶレンズとなる。

その最大の理由は、超ワイドのMFレンズという部分にある。超ワイドレンズはAFが圧倒的に楽。ワイドのMFレンズをデジタルカメラで運用するには速写性が担保できないと感じているので、フィルムカメラに18mmとか21mmを着けてちょっと絞ってバシバシ撮る、みたいな使い方を期待すると「あれ?ワリとピント来てないな」ということになる。

ご覧の通り遠景でも歪まない。シビアに言えばわずかに樽型。注意しないといけないのは指が写り込んじゃう場合が多いこと。小さいからどうしても被り易い。
■フジフイルム X-T5 絞り優先AE(F5.6 1/35秒) マイナス0.7露出補正 WB:雰囲気優先AUTO ISO250 フイルムシミュレーション:クラシッククローム

繰り返しになるけど、特にX-T5みたいなカメラでは被写界深度という概念は通用しないので、使いこなしにコツが必要になってくる。

気に入ったところはなんと言ってもサイズ。小さい・軽いは本当に正義。それだけでも楽しいのに、描写も悪くない。写りそのものは豊田基準で「シッカリしている」評価だし、歪曲も非常に軽微。いたずらにシャープ過ぎないので弄りやすくて表現力豊かだと感じました。

超ワイドの魅力はちょっとした立ち位置や角度の変化でパースの付き方が大きく変化するところ。ということで、今回の作例は超ワイド感から普通の広角レンズくらいの感じまで撮り分けてみたけど、どうですかね?