MACRO APO-LANTHAR 65mm F2 Aspherical 主な仕様
●焦点距離:65mm
●最短撮影距離:0.31m
●最大撮影倍率:1:2
●レンズ構成:8群10枚
●最小絞り:F22
●絞り羽枚数:10枚
●フィルターサイズ:67mm
●大きさ・重さ:φ78×91.3mm・625g
●付属品:フード
最上級の光学性能を実現した、コシナのハイエンド
ニコンZマウント用のフォクトレンダーブランドレンズはこれで7本目となり、そのうちフルサイズ対応のレンズは4つ、APS-C対応が3本と勢力を拡大しつつあることは喜ばしい。また電子接点を持っているので、対応ボディと最新ファームウェアの組み合わせによって3軸ではあるがボディ内手ブレ補正とExifデータ記録などのレンズ通信対応となっている。
本レンズが冠する「APO-LANTHAR(アポランター)」銘は、コシナが設けている厳格な基準をクリアした特別なレンズにのみ名乗ることが許される。まさに特別なレンズなのだ。APOというのはアポクロマート設計を指し、光の三原色である赤・青・緑について軸上色収差を徹底的に補正していることを表している。
MACROという記載があるが、最大撮影倍率は1:2(0.5倍)、となり、本来の意図である最大倍率1.0倍以上というものではなく、接写撮影が楽しめるレンズという扱いだろう。ZfcやZ30などのAPS-Cフォーマット機で使う場合には1.5倍にクロップされるので最大0.75倍の撮影が可能となる。
ピントリング操作感は至福のひと時!
レンズに触れた印象は、他のコシナレンズと同様に非常に上質。特記したいのがピントリングの操作感。個人的に過去に経験したレンズの中でベストの感触。非常に滑らかな動作で、高い精度を感じさせる。これはもういつまででも回して居られるくらいに官能的。この味わいだけでも「人生一度は体験して欲しい1本」として推薦できそうだ。
他のフォクトレンダーブランドレンズと同様に、ピントリングや絞りリングの回転方向がマウント仕向に応じて純正レンズと同じに揃えられている。これだけでも十分に狂気的なコダワリを感じさせるが、更にコダワリの深淵を覗かせる思いなのが、マウントシステムに合わせて光学設計も最適化してしまっているところ。
この「最適化」について軽く触れると…。ミラーレス時代になりフランジバックが短くなったことで、撮像センサーへの入射角が特に周辺部で浅くなり、(撮像センサーの前に配置されている)カバーガラスの特性によっては描写特性に与える影響が無視できない場合がある。そしてこの特性は各マウントシステム毎に異なる。そこでコシナはマウントごとに合わせて最適化し、光学設計に対して理想的な描写を追求しているのだ。
かように合理化や利益の追求とは真逆のスタイルは、株主を公開しているような会社であれば、まず不可能。こうした狂気にも近いコダワリに触れ、感化されることでファンを着実に増やしているように思う。ともあれ情熱的な手法なので筆者個人としては大歓迎だ。
ファインダーを覗くだけでも楽しい!
今回組み合わせたボディはZ 6Ⅱ。ファインダーを覗いた段階で「これは!」と思うほどに良く、ピントの山も掴みやすい。が、フォーカスポイントの枠色変化によるフォーカスエイドの精度については少々疑問が生じた。合焦マークを信じずに、マット面(EVFなのでマット面という表現で良いのか分からないが)や拡大表示でMFした方がピント精度は高かった。
写りは絞り開放から存分にシャープ。APOを冠する通りで、かなりイジワル条件で撮影しても色収差は見当たらなかった。
ボケ味もとろけるようで美しい。これを分かりやすく言うなら「極上」だろう。Z MC105mmほどの切れ味ではなく、少し柔らかな印象があるのも面白い。
Z MC 105mmの話題が出たついでに言えば、玉ボケについては本レンズは口径食がそれなりにあるけれど、マクロレンズでは標準的だと思われる。というのも、直接比較したわけではないけれどZ MC 105mmf/2.8 VR Sもこのくらいの口径食だったからだ。
接写と同時にスナップでも楽しめます
強いて重箱の隅をつつくようなことを言えば、玉ボケの中に非球面レンズ特有のリング模様が出る。これが気になる人はいるかも知れない。ちなみに筆者は全く気にならないし、「だから何だ?」というのが本音。
というのも、こうした描写の特性が写真のクオリティを左右することはまずないからだ。それに経験上こういった些事が気になる場合は、そもそもの写真が面白くなく、かと言ってそれを指摘するのも憚られるので描写のせいにしてしまおうというものだと思っている。
65mmという画角はスナップで遊ぶにはちょうどよい画角だと感じた。50mmより画角的には狭いが、こと接写時には50mmだとワーキングディスタンスが短すぎて不便な場合があり、かと言って105mmだとスナップで振り回すには少し長い場合がある。この間を埋めてくれるのが65mmだと感じたのだ。
普段は50mm画角を少し長いと思っている筆者ではあるけれど、マクロレンズだから、という意識があるせいか、画角の狭さよりもむしろマクロ時のほど良さについての印象が強かった。この感覚はとても新鮮で、普段よりも少しだけ被写体に意識をクローズアップしているという視点が面白く撮影が捗った。
NOKTON40mmF1.2のピッタリ感とは別の心地よさのあるレンズで、撮影しなくてもピントをマニュアルで合わせるだけでも楽しく、レンズが捉えた世界に没頭できる1本だ。撮影倍率や効率化という意味では純正レンズにアドバンテージがあるが、「道楽とは寄り道」という非効率を楽しむのも良いだろう。そういったことに心躍るのであれば是非体験して欲しいレンズの1つだ。