コシナから、ニコンのAPS-CフォーマットのZマウントに対応するMACRO APO-ULTRON35mmF2が追加された。本レンズはつい最近Xマウント版が発売されたばかりだが、そのZマウント版となり、フルサイズ換算52.5mmの画角として使うことができる。

コシナ MACRO APO-ULTRON D35mm F2 (Z-mount) 主な仕様

●焦点距離:35mm判換算52.5mm相当
●最短撮影距離:0.163m
●最大撮影倍率:1:2
●レンズ構成:6群9枚
●最小絞り:F22
●絞り羽枚数:10枚
●フィルターサイズ:52mm
●大きさ・重さ:φ67.6×56.7mm・290g
●付属品:フード 

MFであること以外はニコンのボディと完全対応

色の滲みが全然なくてメチャクチャ気持ちいい写り。APOを冠するだけあるね!ちなみに45MPのZ 7ⅡをDXクロップで使うと19.5MPです。ボディ内手ブレ補正も効くし、相性の良いボディだと思いました。
■ニコンZ 7Ⅱ DXクロップ 絞り優先AE(F2.2 1/640秒) プラス1.0露出補正 WB:オート ISO100

コシナのフォクトレンダーブランドについて簡単におさらいすると、NOKTON(ノクトン)は開放F値がF1.5より明るい大口径レンズに用いられ、APO-LANTHAR(アポランター)はコシナが設けている厳格な基準をクリアした特別な高性能レンズにのみ与えられる名称。冒頭のAPOというのはアポクロマート設計の事を指し、光の三原色である赤・青・緑について軸上色収差を徹底的に補正していることを表している。

本レンズはアポクロマート設計であるAPO印と近接撮影が可能なマクロの名前を冠したウルトロン、という事になる。ウルトロンは開放値がF2前後のレンズを指しているようだ。
マクロレンズと言う表記について、本来は撮影倍率が実倍率で等倍以上のモノを表すものだったが、近年ではその基準も曖昧になっており、接写撮影が出来るレンズを表す言葉として定着しつつある。

絞り開放でもギンギンにシャープ。これ撮った後に「かぁー!」って感嘆しました。使ってみると多分皆さんそういう声が漏れると思います。このタイミングで「あら?X版よりシャープかも?」と。良し悪しというより好みの問題だけどね。
■ニコンZ 7Ⅱ DXクロップ 絞り優先AE(F2.0 1/600秒) プラス0.3露出補正 WB:オート ISO100

他のフォクトレンダーブランドのZ対応レンズと同様にニコンとのライセンス契約の下で開発・製造されており、電気通信対応だ。対応ボディと最新ファームウェアの組み合わせによってボディ内手ブレ補正とExifデータ記録などの機能が動作するので、完全マニュアルの中華レンズと比べてかなり気軽に扱うことができるし、便利だ。

今回はボディ内手ブレ補正機構を持つZ 7Ⅱと組み合わせてDXクロップで撮影した。ちなみにフルフレームではちゃんと周囲がケラれる。

純正よりも上質。メカの良さを存分に味わえる。

ピントの薄い感じを出したかったので開放で撮ろうとしましたが、なにぶん昭和生まれなもので、ちょっとビビって0.3段絞っちゃいました。遠景で絞り開放でもヘッチャラです。
■ニコンZ 7Ⅱ DXクロップ 絞り優先AE(F2.2 1/2000秒) WB:オート ISO100

金属の冷たい温度が手のひらに伝わる感触が心地良く、ビルドクオリティは安心と信頼のコシナレンズで非常に高品位。以前Xマウント版のレビューでも記述したが、最近では「ハイクオリティ」の代名詞をシグマやコシナのようなレンズメーカー(シグマはカメラも作ってますが)が担うようになっている。

自動絞りやAFユニットなどのコストの掛かる部品や、そうした自動化のための「遊び」が必要ないマニュアルレンズであるため、製造コストを工作精度に集中しやすいといった事情はあるが、純正レンズと比べてメカの良さを存分に味わうことが出来るのはコシナレンズの特徴のひとつになりつつある。しかも純正メーカーのお墨付きを貰っているので、安心感はひとしおだ。

絞りを開けて撮ったカットとF5.6まで絞ったカットがあって、こちらのがイメージ通りだったのでコチラを採用しています。ZってEVFが良いからMFが楽しいよ。これだけでもコシナと組み合わせる理由になる。
■ニコンZ 7Ⅱ DXクロップ 絞り優先AE(F2.2 1/200秒) マイナス1.0露出補正 WB:オート ISO160 

繰り返しになるが、触り心地の良さに加え、絞りリングもコリコリと気持ちよく動き、ネットリ感のあるピントリングともども操作感は上質そのもの。フルサイズのZよりも、Z30やクラシカルスタイルのZ fcなどと組み合わせた方が見た目の相性は良さそうだ。

とは言え、至近ではフルサイズZが持つボディ内手ブレ補正の恩恵がないとブレ写真を量産する身体になってしまったおじさんには、Z fcやZ 30との組み合わせは厳しいので、そろそろAPS-C機にもボディ内手ブレ補正をドッキングしては如何ですかね、ニコンさん?

素晴らしい描写! でも、フルサイズではないんだよねー。

開放でも良かったのだけどピントが浅すぎたので0.7段ほど絞ってパチリ。あとクリエイティブピクチャーコントロールのデニムで雰囲気出してみました。これは愚痴だけどZ 7Ⅱのフォーカスエイドって、至近側だとあまり当てにならない気がしています。相性かな?
■ニコンZ 7Ⅱ DXクロップ 絞り優先AE(F2.5 1/1000秒) マイナス0.7露出補正 WB:オート ISO320 クリエイティブピクチャーコントロール:デニム

写りは絞り開放から非常にシャープ。絞り込みによる描写変化については、こと中心部に関して言えばほぼ無しで、周辺部のソフトさが薄れていくだけ、という相当に高い描写性能を持つ。ZにはZ MC 50mm f/2.8という強敵が存在するが、個人的には本レンズの方がツヤがあって好み。

AFがないことが最大のデメリットではあるが、至近端ではAFの有効性はある程度下がるので、マクロレンズが欲しいと思っている人は本レンズを検討して欲しい…のだけれども、こちらはAPS-Cのイメージサークルしか持たないので、敢えてコチラを選ぶには、やはり外観や使い心地、所有欲といった部分に惚れ込むしかないのかも知れない。

「濃密な撮影体験」は純正レンズを超えた?

クロップなしだとこんな感じ。絞り込みやピント位置でケラレの感じが大きく変化するワケではありませんでした。意図的に使うならありかな。一応ですが、ワザと少しピント甘くしています。そういう撮影時の楽しみがMFにはあるよね。
■ニコンZ 7Ⅱ 絞り優先AE(F2.0 1/1250秒) プラス0.3露出補正 WB:オート ISO160

話を描写に戻して、Xマウント版では至近端でのみ絞り開放近辺でわずかにソフトになったが、Z版ではその程度が改善しているので、おそらくセンサー前面にあるカバーガラスの特性が影響しているものと思われる。というかZは「薄い」と言われているので拡散が少ないのかも知れないが…。

焦点距離が35mmなのでワーキングディスタンスが短く、またスナップ用途にしても52.5mm相当画角なので、個人的には少し長い。花壇や庭園などでのスナップを楽しむには丁度良いように感じたが、マクロレンズとしてはもう少しワーキングディスタンスが欲しい。

実焦点距離が短く、ボディ内手ブレ補正を持たない機種でもマクロを楽しめるという点が魅力的。はじめての単焦点レンズデビューとしても、標準レンズの画角であることと、接写にも強いレンズである、という1本で2度美味しいレンズに仕上がっている。ピントがマニュアルになるだけでも撮影体験はグッと濃密になるので、気になる人はチェックしてみて欲しい。