富士フィルムからGFXシリーズ用の超広角ズームレンズが9月29日に発売された。35mmフルサイズ換算で16-28mm相当の画角をカバーし、GFレンズとしては最広角のレンズとなる。

フジノンGF20-35mmF4 R WR 主な仕様

●焦点距離:35mm判換算16-28mm相当
●最短撮影距離:0.35m
●最大撮影倍率:0.14倍(テレ端)
●レンズ構成:10群14枚
●最小絞り:F22
●絞り羽枚数:9枚
●フィルターサイズ:82mm
●大きさ・重さ:φ88.5×112.5mm・約725g
●付属品:フード ポーチ

GFレンズ=寄れない=からのプチ脱却?

さすがに開放だとピントが薄いかと思ったので1段絞ってパチリ。絞り込みによってそれほど描写変化はない。強いて言えば周辺部がシャッキリするくらい。それにしてもGFレンズはちょっと特別な写りだと思いますよ。
撮影共通データ:フジフイルム GFX100S
■絞り優先AE(F5.6 1/250秒) ISO100 WB:オート フィルムシミュレーション:ETERNAブリーチバイパス

これまでのGFレンズは「寄れない」がデフォルトだった。
これは画角に対して実焦点距離が長くなるというラージフォーマットサイズのレンズならではの性質に加えて、APS-C用のレンズ収差レベルを達成するというGFレンズの開発コンセプト、つまりより高い光学性能でより大きなイメージサークルを実現することによる設計難度の高さによるものだ。

が、フルサイズミラーレスのレンズを見てみると、例えばタムロンやソニーでは異常なまでに寄れるレンズもチラホラある。そもそもGFXシリーズが登場した際には「フルサイズ一眼レフ並のサイズで…」という売り文句を掲げていたので、そろそろ利便性についてもフルサイズ機並に開拓して欲しいと願う今日このごろだ。

しかし、である。このレンズは最短撮影距離がズーム全域で0.35m、テレ端で最大撮影倍率が0.14倍と、フルサイズ用のレンズに近い取り回しの良さを実現。かなり頑張っているのだ。それ以外ではレンズ名称からも分かる通り、防塵・防滴・マイナス10℃の耐低温仕様となっている。これはすべてのGFレンズ共通の仕様ということで、システム全体でタフネス性が高められているのは良いところだろう。

極上の操作感ではないものの、実直な作りではある。

雲の感じも捉えたかったので少し絞り込んでいることもありますが、めちゃんこシャープ。超ワイドだから、なのかちょっと空がムラっぽく写るね。これが40万だ! と言われると首を傾げたくなる質感ってのが、ちょっぴり気になります。ただ、質感も頑張った結果これ以上高くなると手が出ないから、ちょうど良いといえばちょうど良いけどね。
■絞り優先AE(F7.1 1/1600秒) ISO800 WB:オート フィルムシミュレーション:ETERNAブリーチバイパス 

レンズそのものは大柄だけど重さはそれほどでもなく、フード込みで800g程度。ズーム操作によってレンズ全長が変化しないインナーズーム方式なのは良いところ。
繰り返しになるが、GFレンズはAPS-CフォーマットのXシリーズと同等の収差量にとどめる、という高度なレンズ設計をしている都合上、どうしても大きくなってしまいがち。

というか、そもそものXシリーズもAPS-Cフォーマット専用設計のワリにはレンズが少しデカイがその一方で性能は申し分ない。そういった前知識を踏まえてみれば画角と開放F値のスペック、GFレンズの思想からするとかなりコンパクトに収められているという印象を持った。

操作感は上々も、ウットリするような没入出来る操作感ではなく、どちらかと言えば「素っ気ないが実用品としてシッカリしている」という感触だ。
お値段からすればもう少し色気を出して欲しいような、実直な道具としてのたくましさを感じるので、この路線を引き続き踏襲して欲しいような…。

AFは高速かつ静粛でコントラストAFのGFX50Rと、像面位相差AFのGFX100Sでそれぞれ試してみたが、どちらのボディでも快適なAF性能があった。
もちろん100Sの方がレスポンスが良く、フルサイズミラーレス機と比べても遜色無い使用感があるが、50Rでも決して「おっそ」ということはない。フォーカシングレンズのサイズが小型化できていることと、AFモーターであるSTMのチューニングも良いのだろう。

描写は文句ナシ! 単玉のGF23mmよりもシャープ!?

あまりにカリッと写るものだから、フィルムシミュレーションも硬調のもので撮っています。それにしてもアスファルトとかコンクリートの質感がエゲツない。この瞬間がGFXだね。
■絞り優先AE(F5.0 1/90秒) ISO100 WB:オート フィルムシミュレーション:ETERNAブリーチバイパス 

GFレンズはGF35-70mmを除き、どのレンズであってもズームレンズであればズーム全域、かつどのような条件で撮っても画面の隅々まで申し分無い画質を実現している。が、このレンズも同様に申し分のない描写性能を持っていた。ちょっとびっくりするくらいにはキレが良く、GFレンズで最もワイドであったGF23mmの描写の記憶よりもシャープさだけで言えば上なのでは? と思うほど。

一応だけど注釈として、GF35-70mmがダメって言ってるのではなくて、このレンズも至近端とか以外ではかなり良く写る。が、一部でホワホワになっちゃうところもある。そのかわり軽量コンパクトに出来ているし、遠景などでは非常にカッチリ写ります。

そういう設計上の差し引きというか、製品コンセプトが自分の想定と合致してないと「良くない」という印象になってしまうのだけれど、こういう状態を正しく表現すると”自身とはマッチしていない”というだけだったりもする…。

だから自分がピンと来なかった機材であってもユーザーによっては「最高!」となる場合も往々にしてあるので、レビューを全面的に信頼するのはちょっと待ってね、というお話。

ま、本レンズはそういう前提条件が必要ないくらいに良く写る。フジからすれば「ラージフォーマットのイメージサークルをこのスペックでこのサイズに収めました。ちゃんとカバー出来ているでしょ?」となるのだろう。ま、太いしソコソコ重いけどね。でもスゴイ事です。

周辺までどのくらい写るのかな? と思って、ワイド端で林で木を仰いでパチリ。絞り開放でも周辺部までかなり良く写りましたが、これはF11まで絞ったカット。これ撮った時点では買う気満々でした。
■絞りF11 0.8秒) ISO50 WB:オート フィルムシミュレーション:ACROS 

逆光にもかなり強い。ワイドレンズなので太陽光線がイヤラシイ角度で入射しやすいけれど、本レンズならヘッチャラ。フレア・ゴーストで逆光感を出したい時などは苦労しそうです。

小売希望価格約40万円(税込)なので、「40万のレンズの実力を拝見」的な見方をしてみると、撮影距離によっては軽微な樽型の歪曲があるが、個人的な意見としては十分に補正されていると感じるし、ワイドレンズでは少し樽型の歪曲があった方が自然に見えるという実体験もあるので、本レンズのチューニングは「丁度良い」か「少し優秀過ぎる」の間くらいだというのが豊田の評価だ。しかし、やはり40万円もするので、何が何でも真っ直ぐ写らなきゃ嫌だ、というユーザーも一定数居られるでしょうけど…。

トヨタ的の期待通りではなかったが、そもそもが異端な使い方なので…

歪曲はほぼゼロ、に見えるように撮ってます。水平垂直をちゃんと出すとわずかに樽型でした。それにしても周辺まで見事な描写ですな。44 x 33のフォーマットの端までシッカリ光が通ってるってのがスゴイよね、このレンズサイズで。
■絞り優先AE(F5.6 1/160秒) ISO400 WB:オート フィルムシミュレーション:ETERNAブリーチバイパス

本レンズのリリースが届いた時には「これは買わざるを得ないな」と思ったので速攻で試用レビューをお願いしました。写りは非常に良かったので欲しい気持ちは高まりましたが、自分の期待した使い方をするには適していないってのが分かり意気消沈。

やはりスペックなどから「コレこそが求めていたレンズだ!」と舞い上がったとしても、実際に現場で使ってみると思わぬ発見が多く、時には「期待と違った」ということがあります。

私のやりたかったことってのは、昨年フジのイメージングプラザで写真展をやったようなグニョグニョの写真をこのレンズで撮りたいと思ったんだけど。
本レンズだとちょっと、というかかなり難しい。これまで500本以上のレンズレビューをやっていますが、やっぱり実際につかってみないと分からないものです。ということでレビューで興味を持ったら一度お店で触れてみるのがオススメです。