フラッグシップ=Z 9も発売され意気揚々としている(であろう)ニコンはレンズの拡充も図っている。いよいよZマウントが主流となろうとしているのだ。そんな中発売したのが人気の高いクラスである超望遠ズーム、「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」だ。今回はこれまた出たばかりのZ9と組み合わせてのレビューをお届けしよう。

ニコン NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S 主な仕様

Z9との組み合わせではバランスは非常によろしい。ズーム操作でもバランスを変えないのはプロ用途もシッカリ意識したさすがの造り。

●焦点距離:100-400mm
●最短撮影距離:0.75m(100mm時)
●最大撮影倍率:0.38倍
●レンズ構成:20群25枚
●最小絞り:F40(400mm時)
●絞り羽枚数:9枚(円形絞り)
●フィルターサイズ:φ77mm
●大きさ・重さ:約98×222mm・約1355g
●付属品:フード・ケース

独特の光学系と絶妙な重量バランス

ファンクションボタンは豊富に用意されており(ボディのFn1/Fn2ボタンと同等)、レンズをぐるっと囲んでいる。カメラの被写体捕捉が外れた場合、ここに異なるAFエリア設定を登録しておき一瞬押すことで捕そくし直してピントをもう一度掴んでくれることもある。

まずはそのサイズ感と重量バランスだが、今回組み合わせたZ 9とのバランスはすこぶる良い。本レンズの重量が1355g(三脚座なし)で、Z 9がバッテリー込みの実用状態で約1340gとほぼ同じくらいだが、セットした状態での重量はとても3kg近いものとは思えないほど軽く感じられる。

しかもズーミングしてもそのバランスはほとんど変わることなく、ズームリングを回しても「ただ画角が変わるだけ」といった印象だ。もちろん荷物としての重さはあるものの、バランスが良いため長時間手にしても疲れにくいのだ。この辺りは組み合わせるボディによっても当然変わってくるが、Z 6/7系であれば、バッテリーグリップなどを併用することで、この「絶妙な重量バランス」を得られるだろう。

ロック機構付きレンズフード。

ちなみに、この1355gという重量は「クラス最軽量」とのこと。とはいえ他社では500mmクラスでほぼ同様の重量クラスのものが存在するため、その言葉にはあまり重みはない。が、レンズ構成が25枚とこのクラスにしては多め。スペック表を先に見ていたワタシには拍子抜けするほど“軽い”と感じられた。

良くも悪くも距離はデジタル表示。見たいのは一瞬で、どちらかというとスタンバイ中なのだが、そういうときに表示が消えてしまうのがデフォルト…。暗所での視認性はもちろん高い。

本レンズの構成は20群25枚。このクラスでは16、17群でも多く感じるし、22枚程度が上限というイメージがあった。さらに、少ない枚数と群構成で、AFユニットはできるだけシンプルにして軽く速く…が最近のAFレンズの流れ。それなのに20群ものグループに分け、フォーカスユニットも複数に分ける「マルチフォーカス」の採用で、かなり複雑な動きをさせている。

それでいてAFは高速だ。走り回るチーターの動きにも追従し、ミドルクラスのバイクではメインストレートの加速にも余裕で対応。トップクラスのレースシーンでも十分な速度で受け止めてくれた。

三脚座は取り外しが簡単。それでも強度はシッカリでガタつくようなことはない。

手ブレ補正も優秀。AFはボディ依存で課題も。

半日チーターを追い回してみたが距離、焦点域に係わらずシッカリ追従。カメラが捉えてくれてさえいればなんの不安もなく対象を追い続けてタイミングだけに集中できる。
■ニコン Z 9 絞り優先AE(F5.6 1/640秒) マイナス1露出補正 WB:オート ISO100 ※400mm

その高速性に対応する本レンズのAFだが、当然AFに関してはボディ側のAF機能に依存する部分も大きい。今回は最新のフラッグシップ機であるZ 9との組み合わせということで、いわば条件は「最速」。

手ブレ補正も5.5段分と十分で、Z 9との組みと合わせでは5軸補正を行う。先に紹介したバランスの良さもあってか、実際には5.5段以上の手ブレ補正効果を得られることが多かった。もちろんそこには個人差もあるだろうが、少なくとも5.5段分は安心して使えるスペックであると読んでいいだろう。

かなり速度が出る被写体であっても楽に追従。キレがあるので撮影者は構図やタイミングに集中できる。
■ニコン Z 9 絞り優先AE(F9 1/400秒) マイナス1露出補正 WB:1250 ISO100 ※400mm

ただし課題もある。これはZ 9のAF機能の問題だが、被写体検出&捕捉能力が微妙なのだ。本レンズで被写体を捉え続けていると、時折、手ブレ補正が「ガタン」とファインダー像をずらし、カメラのAFが被写体を見失うケースが多発していた(ファインダーに被写体は捉えていても、だ)。

しかも一度被写体を見失うとピントは戻ってこない。これはレンズの問題ではなくボディ依存の部分だが。このZ 9の被写体検出と3Dトラッキングは、まだまだファームの完成度が十分ではないと使ってみて実感した。
もちろん、慣れやクセをつかめば変わってくるのかもしれないが、これまで高速連写を楽しんできたユーザーなら、旧来のダイナミックAFを使用した方が多くのシーンで幸せになれるような気がする。

シャープネスは周辺まで高いので細かい絵柄となる風景でも安心して使っていける。このような解像感頼みの画も楽々こなせるポテンシャルを持つ。
■ニコン Z 9 絞り優先AE(F5.6 1/1600秒) WB:2000 ISO100 ※400mm位置

気になる画質は?

日影で光量的には乏しくISO2000まで上げているので多少ノイズはあるが、毛並みのシャープネスを見ればその解像感の高さがおわかり頂けるだろう。
■ニコン Z 9 絞り優先AE(F5.6 1/400秒) マイナス1露出補正 WB:オート ISO2000 ※400mm

気になる画質だが、これまたとても良い。周辺まできっちりシャープだ。100mm端、400mm端だけでなくズーム全域でほとんど穴となる焦点域が少ない。これはなかなかのものだ。20群25枚の構成がうまくハマっていると言ってもいいだろう。解像は四隅までシャープで、イマドキのレンズ比較では重箱の隅をつつくような比較をして少しでも違いを見いだす=そうしないとこれまでのレンズとの差がうまく伝わりにくいからだ。

そのようなシビアな見方をすれば、400mm端では4辺の1%も満たない範囲、100mm端では5%に満たない本当のギリギリの端では甘くなることがある。手ブレ補正をオフにしたリジットの状態で、だ。
ただし、そこに主要な被写体を置くことはまずないであろうギリギリの端であるし、甘くなるとはいってもかなり微妙なレベルのもの。ポイントを指定して比較しても判らないというユーザーもいるはずだ。

テレ端(左)ワイド端(右)だけでなく、ズーム全体でムラなくシャープネスは高い。中央から周辺までかなり均一にシャープネスを保っている。ギリギリの端だけがどうの、といってもみて判る人も少ないだろう。テレ端の拡大部(下)を見ると、ややフレアっぽくなっているのが分かる。これがボディ由来と思われるものだ。

また、ここでもボディ由来の部分が出てきて、Z 9では高輝度な部分がややフレアっぽくなる。逆光の太陽のカットを見れば解るが、太陽をアンダーに撮ってもエッジが霞んでくる。解像感確認のカットでもフェンスに光が当たりややフレアっぽくなっているが、これはレンズではなくボディ由来と思われる。なぜなら他のレンズでも描写が同様だったからだ。

太陽を入れれば、強くはないがゴーストは発生する。ズーム両端で中央から太陽が外れればすぐに発生。そこから中間辺りはあまり発生しないが、周辺部分ではまた発生。周辺部分では対角よりも外側に向かって発生するゴーストの方が大きい。これはワイド端テレ端どちらも同様の傾向だ。そして太陽のカットはピーカン時の撮影だが、太陽が霞んでしまう。これがボディ由来と思われる部分だ。

100mm位置で撮影。画像ではわかりにくいかもしれない(スマホでは特に)が…太陽を撮っているが、中央から外れれば(画像左)このレベルのゴーストはすぐに発生する。むしろ周辺に寄った方がゴーストが出にくく、端に行くと(画像右)外側に向かってゴーストが発生。

400mmテレ端での撮影。ここでも100mm時と似たもので、ゴーストは数は多くないが大きめのものが発生。隅に行くほど外側へのゴーストと変わる。また、ピーカンでもこのような霞んだエッジの太陽になるのはボディ由来と思われる部分だ。

…とこまごまと突っ込んではいるけれど、そういったボディ由来の部分を排除して見れば、本レンズはかなり画質は高く素性は良いといえるだろう。テレコンに対応している点も見逃せない。
はっきり言ってこの焦点域を必要とする人であればジャンルを問わず便利に使え、画質的にも期待に応えてくれるものになっている。Zボディユーザーで望遠ズームを求めるならまずは持っておきたい1本といっていいだろう。

寄り引き、止め流し、いずれも思いのまま。バランスがいいのでとっさの判断でも構成変更がしやすい。
■ニコン Z 9 絞り優先AE(F8.0 1/40秒) WB:オート ISO64 ※400mm位置