「コシナがZマウントにカチコミを掛けた」というニュースに、大変心が踊りました。Xマウント版でもWebカメラマンではその功績を称え、神棚にお供えする勢いで耽美喝采したことが記憶に新しいところですが、その御利益がニコンZマウントにもやってきた??

コシナ NOKTON D35mm F1.2 Z 主な仕様

●焦点距離:35mm(35mm判換算53mm相当)
●最短撮影距離:0.3m
●最大撮影倍率:0.15倍(35mm判換算0.22倍相当 )
●レンズ構成:6群8枚
●最小絞り:F16
●絞り羽枚数:12枚
●フィルターサイズ:φ46mm
●大きさ・重さ:φ65.8×41mm・230g
●付属品:フード/キャップ

既発=Xマウント版の光学系を踏襲

壁の塗りやペンキのヨゴレなどは豊田家の家訓として撮らなければならない被写体のひとつ。EVFの覗き心地が良くピント合わせも楽ちん。少し絞っていることもあって周辺まで端正な写りでニンマリ。
■ニコン Z fc 絞りF3.5 1/1000秒 WB:自然光オート ISO200 ピクチャーコントロール:オート

光学系は既に登場しているXマウント版と同じ。つまりは信頼と実績のダブルガウスタイプに球面レンズのみで構成された8枚玉、と言えば分かったような分からないような気持ちが支配的になるかと思います。が、どことなく良いモノ感があるように感じられます。

簡単に説明すると…ダブルガウスについて、凸レンズと凹レンズを組み合わせた構成のことをガウスタイプといいます。言葉で表すと 凸/凹 という配置。これを絞りを中心として左右対称に配置したレンズの事をダブルガウスと言います。

構成を表現すると 被写体 |  凸/凹/絞り/凹/凸  | カメラ
という構成で左右対称型になっています。一般的な構成では
凸/凸凹接合レンズ/絞り/凹凸接合レンズ/凸
となっていて、4群6枚が最小構成であることが多いです。
本レンズでは”8枚玉”ということで、さらに前後に1枚ずつレンズが追加され
凸/凸凹接合レンズ/凸/絞り/凹/凹凸接合レンズ/凸
の6群8枚構成になっています。

今回は絞りリングとシャッターダイヤルでマニュアル露出で撮影しているので、シャッター速度がキリ番です。露出の微調整は絞りかISO感度でやってるんだけど、パッと光を読んで露出を決めてザックリ設定して…という撮影のお作法がとても楽しかった。コシナレンズなんだけど、絞り込んだ際の写りはZシリーズそのものっていうのも興味深い点。
■ニコン Z fc 絞りF4 1/1000秒 WB:自然光オート ISO160 ピクチャーコントロール:オート

対称光学系の良いところは、一般的に前群で生じた収差が後群で補正しやすい、倍率色収差と歪曲収差の補正が優れている、とされています。
以上のことから「ほー、ダブルガウスだから周辺部の色ズレが少なくて、歪曲も少なそうだ。球面レンズのみで構成されているというから、きっと素直な描写なのだろう」みたいなことがレンズ構成図やスペックシートから予想することが出来ます。

が、所詮は素人の浅知恵による推論に過ぎません。私も光学は囓ったことがありますが、やればやるほど分からない世界だと思ったし、構成図を見たところで実際の写りは分からないので、先入観を持たずに撮るのが大吉です。

構成図を見て云々は光学設計の玄人にのみ、語る資格があるというもの。豊田のような浅学非才の光学ド素人は飲み屋の席で前後不覚の場合にだけ語ることが許される類いのものでしょう。

Z fc とのマッチングったら! これでいーんですか、ニコンさん?  

たまたま絞った作例ばかりになりましたが、Xマウント版と同じく、絞りを開ければふわふわ、絞ればカッチリ。これに撮影距離や光線状態によっても表情が異なるので、使っていてとても楽しい。使いこなし甲斐がある。シンプルな光学設計だけど最新世代らしさもあるし、電子接点持ってるのでEXIFにデータ残る技巧派でもあります。控え目に言ってもZ fcユーザー必携だな。
■ニコン Z fc 絞りF4 1/500秒 WB:自然光オート ISO160 ピクチャーコントロール:オート

与太話はこの程度でレンズの紹介。
コイツはどう控え目に評価しても、それこそ眺めているだけで口元がだらしなくなってしまいそうな素晴らしい美的センスで構成されています。Zマウントって径がデカイのでこういうコンパクトなレンズを組み合わせると先細り感が強くなりそうだけど、上手いことバランスされている手腕はもう見事の一言。「似合うレンズが無い選手権」の王者Z fcを見事に陥落せしめています。

つまり…恐ろしく格好良い組み合わせの実現です。Xマウント版はレンズ先端に絞りリングありましたが、本レンズではニコンのお作法に合わせてマウント部にちゃんと配置されています。操作感の良さについては最早コシナの伝統芸と言っても過言ではないでしょう。

肌触りの良さ、ねっとり系のピントリング、コリコリと心地良い絞りリング、見目麗しきデザイン…すべてが高品位で安心のMade In Japan。不肖豊田のような昭和の生まれの人間が、こうした特徴を持つ製品と出会うと「なんとしてでも市中から救い出し、我が家で愛でるのだ!」という気持ちを、懐事情によっては抑えられません。

Xマウント版同様に「絞りで遊べる」タイプです

ご覧の通り樽型の歪曲がありますが、だからなんだって感じ。補正三昧のミラーレス世代にあってこういう描写を楽しめるのは新鮮だし、MFで撮るのも心地良い。撮影が楽しいレンズ。ってか、純正でこういう楽しみ方を提案して欲しかったよねぇ…。
■ニコン Z fc 絞りF4 1/500秒 WB:自然光オート ISO160 ピクチャーコントロール:オート

そう言えば、ダブルガウスは歪曲に有利とか何とか上述していますが、撮ってみるまで分かんないのよね。設計の狙い次第だからね。
そういうオールドレンズっぽさがあるかと思えば、切れの良い表情を見せることもあります。電子接点を持ちボディとちゃんと通信してくれるのでEXIFにも情報が残るし、Z7などのボディ内手ブレ補正を持つカメラであれば3軸の補正が可能です。

イメージサークルがAPS-Cなのでフルサイズ機につけるとしっかりケラれますが、APS-Cで設計しているからこそのサイズ感とお値段なんだろうね。これで良いと思うよ、豊田は。

絞りリングのクリック感は1/3段刻みだけど、絞り値自体は無段階で1.2→1.3→1.4みたいに操作に応じて連続的に変化していくのも面白いので、中間絞りを使ってみようかな?という気持ちになりました。

描写力に関しても、超絶性能のZレンズと遜色ナシ?

今回一番の発見だったのが、Z fcとこのレンズの組み合わせは最高に面白いってこと。覗きやすいEVFを持っているのでMFがやりやすいし、フルマニュアルで使うぞ! という気持ちでマニュアルで撮っていたら今までZ fcにピンと来ていなかった気持ちがスッと落ち着きました。

なので今回845ショットした内の70%くらいは露出もマニュアル。ざっくりシャッター速度を合わせて絞りで微調整。LCDは見ずにEVFで撮りました。これが非常に楽しかった。Zが登場して以来で一番楽しかったね。

気になったところは、ボディUIでは歪み補正のON/OFFが選べますが、実際には現状で動作しません。そのうちアプデとかLrとかのアプリで補正が適用出来る時が来るかもね。

左がノクトン、右がZ35mmF1.8S。どちらも絞りはF8。ほぼワースト案件というかシビアコンディション。パッと見ではほぼ同等なんだけど、比べてみるとZレンズが明確にフレアの影響が少なくクリア…だけど、その代わりにゴーストが目立ちます。コシナの方が程度は悪いけど自然に見えるので、好みなのはコシナ。光芒の出方とかは好みの問題でーす。

一応、本家ニコンに敬意を表してZ35mm f/1.8Sと比較してみました。
逆光に関して、作例はありませんが斜光線に関してはZレンズの方が良いです。フードがデカイのも効いてるね。けど、直射に近い意地悪シーンだとNOKTONも健闘しているし、このくらい出る方が使っていて楽しいと思います。

光学性能的にはZの方が優等生だけど、豊田的にはNOKTONの方が自然で好きでした。Zはボケがちょっとウルサイんだよね。
ということで、Z fcユーザーは万難を排してでも買うべきです。こういうレンズを純正で期待したかったよねぇ…。

同一絞り(F1.8)での比較。こちらも左がノクトン、右がZ35mmF1.8S。まぁ明らかにZの方がクリアで綺麗だし周辺部でのフリンジなども無い。でもボケはちょっとウルサイ感じ。NOKTONはボケが柔らか。ちなみにシャープネスやクリアさについてはF2.8より絞り込むとほぼ同等でした。F4.0だとマジで分からない感じ。ただボケてる背景を見ればやっぱりNOKTONのがウルサクないので豊田好みでした。キットズームとかでパリッと写るから、単焦点はこれくらい味わいがあっても良いんじゃね?と思いますよ。メリハリついて楽しそうじゃん