AF追従18コマ/秒というスペックにインテリジェント被写体認識AFを搭載し、モータースポーツを撮影するユーザーに狙いを定めたかのように登場した「E-M1X」。その実力はいかに?シーズン開幕前のスーパーフォーミュラ、鈴鹿サーキットでのテスト走行を撮影した。

まずはセッティングから

40-150mmは35mm換算で80-300mmF2.8に、300mmは600mmF4だ!

今回使用した機材 E-M1X に装着したレンズは M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO を主に、M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO と M.ZUIKO DIGITAL 1.4x Teleconverter MC-14 を組み合わせて使用した。

アスペクト比は汎用性のある3:2を選択、またこの設定画面では連写L(10コマ/秒)となっている。

設定項目は非常に多岐に渡り、独特の階層構造で細分化されている。使い込んでいくことでより好みのセッティングを見つけることができるのがOM-Dシリーズの特徴。主要な項目はスーパーコンパネで選択できるので慣れるまではこちらを使用する。コンティニュアスAFで追尾機能をONにすることでインテリジェント被写体認識AFとなる。ここでモータースポーツシーンを選択。連続撮影中にAF追従できるドライブモードは、連写L(10コマ/秒 機械式シャッター)と静音連写L(18コマ/秒 電子シャッター)、今回はテスト撮影ということで静音連写Lの電子シャッターを主に使用した。
そしてこの追尾機能AFの有り無し2パターンをFnレバーで切り替えるように設定。

ヘルメットをロックオン!

1/640秒 f7.1 300mm 1.4Xテレコン使用 ISO640 福住仁嶺選手

1/640秒 f4 300mm ISO200 アーテム・マルケロフ選手

ファインダー内にマシンを捉えると、まずAFターゲット枠が現れ追尾AFがスタートする。そしてヘルメットを認識するとAFポイントを緑色で表示、ファインダー上を移動してヘルメットを追いかける。これに気を取られているとシャッターが押せなくなるので、最初は見て見ぬフリをしてレリーズ。撮影を繰り返してる内に、こちらも目が慣れてきてAFポイントの行方を追いながら撮影ができるようになった。基本的にはヘルメットを追いかけているようだが、時折マシンノーズのカーナンバーや、リア翼端板の模様に浮気することもあった。これはミラーやHALOでヘルメットが認識しづらくなった場合に起きているようだ。

実は今年から国内のスーパーフォーミュラにもHALO(ヘイローと呼ぶ)なるコックピット保護バーが装着となった。つまりヘルメットむき出しではなくなったのだ。この事実をE-M1X開発陣が知っていたのかどうかは不明だが、まれにヘルメットを見失うこともあった。しかしながら大体の場合は無事にヘルメットを認識し、AFもHALOを含めたヘルメット付近に合焦しているようだ。

1/640秒 f6.3 40-150mm 1,4Xテレコン使用 (210mm域) ISO200

このインテリジェント被写体認識AFを上手く使いこなすためには、マシンが遠くに見える段階で一旦ファインダー中央でヘルメットを捉えてからフレーミングし直すと良いだろう。まるで警察犬の鼻に犯人の臭いを憶えさせる、みたいな感じで。それをしないと上の写真のように、後ろのマシンのヘルメットを認識してしまう可能性もあるからだ。

フレーミングが自由に

1/640秒 f5.6 300mm 1.4Xテレコン使用 ISO400 ニック・キャシディ選手

1/640秒 f6.3 300mm 1.4Xテレコン使用 ISO400 山本尚貴選手

カメラに被写体を認識させてしまえば、あとは自由なフレーミングが可能だ。慣れてしまえば緑色のAFポイントがヘルメットを追いかけているのを確認しながらシャッターを切れる。ほぼ画面全体をカバーする121点オールクロス像面位相差AFセンサーにより、これまでにない大胆な構図にもチャレンジできる。ただし注意したいのは、AFポイントが追従しているからといって必ずしもAFそのものが追いついてきている訳ではない、ということ。確率を上げるために、望遠レンズでは一脚を使用したり、流し撮りでは正確にカメラを振るという基本をおろそかにしてはいけないのだ。そこを理解して最適な使い方をすれば強力な武器になる、そんな機能だ。

電子シャッターの宿命

1/640秒 f4.5 300mm ISO200 アレックス・パロウ選手

18コマ/秒でAFが追従可能という、ソニーα9に次ぐハイスペックな機能を持つE-M1Xだが、ここで注意したいのは(もちろんα9もそうなのだが)それが電子シャッター使用を前提としている点。センサー読み出しを上下方向に順次行うため、機械式シャッターではほとんど発生しない上下方向の画像の歪み、いわゆるローリングシャッター現象が少なからず発生するのだ。レースシーンの場合、高速でマシンが画面を横切る、と言った場合に顕著にみられる。上のカットで、背景のマシンや看板が斜めにヒシャゲているのがお分かりだろうか。下のカットではタイヤの歪みが気になるか、言われなければ分からないか、いや、一度気づいてしまうと気になってしょうがない。

これらを防ぐには機械式シャッターを使用することだ。本機では静音ではない連写L(10コマ/秒)が機械式シャッターなのでこういった現象を回避できる。実際の撮影でいちいち切り替えるのは面倒だし経験も必要なので、モータースポーツ撮影では連写Lを推奨する。10コマ/秒でも十分な連写速度なのだから。

1/640秒 f5.6 300mm 1.4Xテレコン使用 ISO400 小林可夢偉選手

EVFの見え方は?

1/800秒 f5.6 300mm ISO400 平川亮選手

静音連写Lではブラックアウトフリーの連続撮影が可能だ。そこで斜め方向に駆け抜けるフォーミュラマシンを、なるべく画面いっぱいに捉えるようカメラを振りながら連続撮影。しかしながら恥ずかしい事に最終コマでは完全に画面切れを起こしてしまった。撮影中は確かにファインダーに納まっていたのだが...。通常ほとんど気づかないレベルまでEVFのレスポンスは向上しているし、この場面も2コマ目までは全く問題なく3コマ目も許容範囲。4コマ目に至っては、通常は撮影直後に削除してしまうので記録には残らない。言っておくがピントは非常に良い、EVFは…さらなる技術の向上に期待したい。

多彩なAFターゲットモード

1/50秒 f3.5 40-150mm (100mm域) ISO200 AFターゲットモード(スモール) 坪井翔選手

1/500秒 f11 300mm ISO200 AFターゲットモード(グループ9点) スーパーGT ニッサンGT-R

インテリジェント被写体認識AFについ目がいきがちなE-M1Xだが、AFエリアの範囲を使用状況に合わせて設定できるAFターゲットモードも充実している。顔優先AFでは捉え切れないヘルメット奥の表情は、より細かいポイントに合わせられる「スモール」でスポットAFが可能。GTマシンなどピントを面で捉える場合は「グループ9点」でやや広い範囲をカバー。ユーザーが自由に設定できるカスタムAFターゲットモードでは、スタートシーンの撮影に有効な「横1列11点」なども設定可能だ。

マイクロフォーサーズの優位性

日常使用している35ミリサイズのシステムに比較して一回り小さいボディ、レンズ。しかも35mm換算すると焦点距離は倍になる。40-150mmは80-300mm、300mは600mm、テレコンを付けると840mm相当。これだけの機材が小型のバックパックに収まってしまう。広大なサーキット、コースサイドの撮影ポイントをいくつも移動するには最強の武器だろう。

今回 E-M1X を使用してみた感想を一言で表すなら「これで十分」ではなく「これはスゴい」だ。もちろん、これじゃ仕事には厳しいかな、と思った点も正直ある。でも「守るモノはない、ひたすら攻めるのみ」とモータースポーツのジャンルへ殴りこみをかけたこのスペックに、強烈な驚きを感じたのも事実。Web媒体の編集者がチョッと使ってみたら意外とイケる、「何だ、俺って写真上手いじゃん」とプロへ発注する仕事が減る、みたいなことがあるかもしれない。保守的になったら淘汰される、それがプロの世界。少し目が覚めました。ありがとう、E-M1X!

(PHOTO&TEXT:井上雅行)

2019年 スーパーフォーミュラ選手権 開催スケジュール
1  4月20~21日 鈴鹿サーキット
2  5月18~19日 オートポリス
3  6月22~23日 スポーツランドSUGO
4  7月13~14日 富士スピードウェイ
5  8月17~18日 ツインリンクもてぎ
6  9月28~29日 岡山国際サーキット
7  10月26~27日 鈴鹿サーキット