今回のテーマは『彼女が口にした言葉』
とある夏の日に、淡い憧れを抱いた彼女とは、恋人でも友達でもない微妙な関係。その関係も秋まで続いた。
デートというには距離が遠く、友達と遊びに来たというには距離が近い、そんな“デート”が今日まで。
もうすぐ冬になる。
その前に、想いを届かせたい。
夏に行った海に来てみたいという彼女のリクエストで訪れた湘南。
そろそろここを離れようとかと言ったところ、すれ違うように彼女は言葉を口にした。
その言葉を口にした瞬間は掲載カット。
近くて遠い、いつものデート
今日のデートもいつもの通り近くて遠い。
もうすぐ冬となる眩しい光が通りを照らす。
もう直ぐ来る冬を感じさせる青空。
横断歩道を渡り終えると、目をそらすように海を見る彼女。
脅かすようにそっと近づくが笑顔が見られなかった。
あまり並んで歩きたがらないのは普段から。
後ろ姿を見ることが多い僕は、彼女の表情を想像するしかないんだけど、あっちを見たりこっちを見たり、立ち止まったり。
今日はやけに多いね。
今日は絶対に伝えなければ!と、彼女の右手をつかんでこちらに引き寄せた。
彼女は勢いよく振り向く。アッと驚く中、僕はついに想いを伝える。
無言の時間が少し続いた。
すれ違いざまに彼女が口にした言葉…それは『さよなら』だった。
お互いの距離の表現を焦点距離で
基本的にはナチュラルな距離感を、と標準系での撮影とし、懐に飛び込むような距離を詰めたシーンでは思い切った広角で20mmを使用した。焦点距離による歪みは折り込み済みでの構図で。
少し離れたところから見つめるシーンは中望遠。
こうしたお互いの距離の表現を焦点距離で変えるのは、ある意味常套手段かもしれない。でも今回はストーリー仕立てで、かつお互いにどういった心持ちでここの撮影を行っているかを確認しながらなので、焦点距離による誇張が行いやすく、かつお互いが表現しやすかった。
やはりどのように、どのくらい写っているのか(特に歪みのある広角レンズでは寄りのカットでは)は、伝えておく方がいい。
もっとも、距離を詰めての撮影に、できるだけナチュラルでね、という注文は、なかなか酷なものかもしれない。
(萩原)
昨年あたりから馴染みのある湘南での撮影。
「ここを曲がったら、あの道に行ける」など、地元感が湧いてきて、散歩が楽しかったです。
当日はお天気も良く、富士山がくっきりと見える気持ちのいい1日。
海での撮影はそれだけで自然とストーリーができてくる感じがして好きです。
本誌掲載のカットでは、ちょうどいい風が吹いて、カメラに向かって言葉を伝えるように心がけました。
実はこの言葉を選んだのは私自身。その方が自然な仕草につながるかなって。
今回の一連の撮影は、とある曲をイメージしながらストーリーを立てて行いました。二人の関係を念頭に自然な仕草や表情を心がけましたが、毎回思うのですが、それって難しいな。
(いのうえ)