写真の新たな媒体、SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)この連載では写真家・中野幸英さんが、SNSから生まれた新たな文法=リテラシーを実際に投稿者と会って検証・共有していきます。今回は鈴木賢一さん(グラフィックデザイナー)をご紹介します。この記事は月刊カメラマン誌に掲載されたものです。

デザインと写真

ドイツのベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻は、曇天の中で溶鉱炉などの建造物をストレートに撮り、並べて展示することで、それぞれの違いと共通性を現した作家だ。Instagram の正方形サムネイルや、白く簡素なデザインの中で並ぶ写真は、ベッヒャー夫妻の手法であるタイポロジーという見方や、アンディ・ウォーホールのミニマルな作品のように、見る楽しみをリキャップ(要約)している。

デザインとは不要なものを削ぎ落としてわかりやすく伝える技術だとすれば、鈴木さんのこだわりやデザイナーとしての作法が、Instagram と相性が良いのもうなずける。

バズったその1 枚と同じ距離感、大きさを貫いている中で、日々の生活でのわずかな違いとハルタ君の成長を伝えながら、ツーショットのどこかバランスの取れた安らぎを多くのフォロワーと共有している。それは海外にも伝わる、普遍的な写真を見る楽しみなのだ。

ここで、撮影している姿を見せてくださいとお願いすると、鈴木さんがもぞもぞと、こたつの中から3 歳児なみの大きな猫、マイロをひっぱり出して度肝を抜かれてしまった。ひょっとしたら鈴木さんは謙虚なふりをした、かなりのエンターテイナーなのではないだろうか。

wise01さんの写真

デザイン学校時代の後輩でもある、友人のカメラマンに勧められたEOS kissX2 を当初使い、今はEOS 7D にシグマの30mm を特によく使っているという。それまで穏やかなお父さんだった鈴木さんは一変し、俊敏に動く。大抵はこれ、という30mm(EOS 7D では標準画角)も潔い彼の姿勢を伝えてくれる、シンプルで良いレンズだと改めて思う。

鈴木さんはそれをフォトショップでRAW から1 枚ずつ現像していく。注意しているのは余計なものを入れないこと。明るく彩度を抑えて、いわゆる抜けのよい絵を心がけているそうだ。

あまり注文をしない(きっと聴いてくれない)被写体との距離、潔さ、撮り方や被写体の自制。デザイナーさんとは思えないほどに、わかりやすく魅力的な写真の基本を忠実に抑えている。
いつものリビングの、いつものソファーの前なのに、眼差し鋭く息子と大きなネコを凝視し、身を何度も屈み、アングルを探し続けるその姿は、まぎれもなくカメラマンのそれだった。

写真・文 中野幸英さん

写真家。作品制作、コマーシャル撮影をはじめ、動画撮影や講師、東北復興プロジェクトのメディア担当など多岐に活動。