『一瞬を共有する二つの心』。毎回一つのテーマを決めて撮影、撮り手である私・萩原がそのカットの撮影者側の意図を、モデルであるいのうえのぞみさんが撮られ手の意識を、それぞれ語るこの企画。本誌9月号で掲載したカットとは違う、いわゆるアザーカットの紹介とその撮影について語っていきます。

今回のテーマは『淡い憧れ』

本誌では、徐々に特別な女のコとして意識し始めた彼女に対し、気持ちを言い出せないまま、彼女の仕草を追いかける目線で…というカットを掲載いただいた。
Webでは、現実から空想へと展開してみた。

遠目から彼女をみつめる。

彼女は何を見ているのだろう…ちょっと離れたところ、あとから歩いてくる彼女を、チラチラっと振り返りながら。

■ソニーα7R Ⅲ FE85mmF1.4GM 絞り優先AE(F1.4 1/250秒) プラス1.0露出補正 ISO200 RAW WB:太陽光

彼女を意識すると、ここからは妄想。

まっすぐと見つめる眼差しは、確かに僕に向けられている。
少し乱れた、そして何かを訴えているいるかのように。
その姿が神々しくも眩しかった。

■ソニーα7R Ⅲ SIGMA 35mmF1.4DG 絞り優先AE(F1.4 1/500秒) ISO100 RAW WB:マニュアル

ソファに腰掛けると、無防備にも横になる彼女。
表情は影で見えない。だから余計に気になる。
どういうつもりで僕の前にこうしているのか、が。

■ソニーα7R Ⅲ SIGMA 35mmF1.4DG 絞り優先AE(F1.6 1/125秒) マイナス0.3露出補正 ISO125 RAW WB:オート

艶かしい姿で階段の上にいる彼女に、僕は近づこうと、そっと階段を這うように登っていく。
でも表情を見たとき、ハッとなる。
そこには何とも言えない悲しさ漂う表情で、窓の外を見る彼女。
僕の求める彼女はこういう彼女ではないかも…そう思った瞬間に、妄想が途絶えた。

■ソニーα7R Ⅲ FE55mmF1.8 ZA 絞り優先AE(F1.8 1/125秒) マイナス0.7露出補正 ISO640 RAW WB:オート

淡い憧れの現実と妄想

妄想シーンは勝手な距離感(妄想ですから)で、やや近めを感じさせる35mmで撮影。階段上のカットは自然な距離感を、と55mmを選択した。妄想と言ってもエロではなく、艶かしい匂いを想像してみた。影が、艶にせよ謎めいた雰囲気にせよ絶対の存在になると考えたので、かなりこだわってみた。表情やポーズはこちらから注文している。(萩原)

妄想編では、大きな洋館で撮影しました。普段は着ないような衣装に少し緊張しつつ撮影スタート。一方的に覗かれている感じを撮りたいので、と、萩原さんから『あまり見られていない雰囲気でお願い(撮られていることを意識しないで)』と言われたので、なるべくカメラを意識しないようにしました。こんな写真に憧れるはあるけど、誰かに憧れる気持ちって最近ないなー(笑)(いのうえ)

撮影はポートレートの達人、写真家・萩原和幸さん

1969年、静岡県出身。東京工芸大学卒業。静岡大学人文学部法学科卒業。写真家・今井友一氏に師事、独立後、K&R Photograph∞を設立。フリーランスのフォトグラファーとして雑誌での撮影・執筆や広告撮影などで活動中。公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員。静岡デザイン専門学校非常勤講師。
www.ikkyow.com