相当数の35mmレンズを試している赤城耕一氏が「幸せなんです、この17mm F1.2。10点満点!」と言う。オリンパスのProシリーズは2016年は300mm F4で、2017年は12-100mm F4で、そして2018年は17mm F1.2でカメラグランプリ「レンズ賞」を3年連続で受賞しており、圧倒的な高評価を得ている。望遠、標準ズーム、広角という異なる分野で、また45mm、25mm、17mmとF1.2シリーズを発表するなどここ数年は怒涛の攻勢だ! そんなオリンパスの開発部隊を赤城氏が直撃した!

OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO主要スペック

●レンズ構成:11群15枚(スーパーED×1、ED×3、ED-DSA×1、EDA×1、スーパーHR×1、非球面×1)●防塵防滴機構●画角:65度●最短撮影距離:0.2m●最大倍率:0.15倍●絞り羽根枚数:9枚●サイズ・重さ=φ68.2×87㎜・390g●ケース・レンズフード・FRキャップ同梱■価格:14万2560円(税込・オリンパスオンラインショップ価格)

写真左より光学システム開発3部の長澤健一氏、光学システム開発3部の安富暁氏、インタビュアーの赤城耕一氏、光学システム開発1部の三木真優氏。

特徴その1:11群15枚構成

ZUIKOレンズ最多となる6枚のEDレンズを用いることで、大口径レンズで課題となるアウトフォーカスでの色にじみ(軸上色収差)と、画面周辺での色にじみ(倍率色収差)を効果的に補正。新開発の“ED-DSAレンズ”に加えて、スーパーHRレンズ、EDAレンズ、非球面レンズを効果的に配置することで、大口径化(F1. 2)で課題となる球面収差を意図して最適に残し、コマ収差を徹底的に抑えることで、美しくにじむボケと、開放絞りから点を点に写す高い光学性能を実現した。

特徴その2:ED- DSAレンズ

世界に先駆けて量産化に成功した、DSAレンズにEDガラスを用いたレンズ。ED(特殊低分散)レンズは高い色収差の補正能力を持ち、DSAレンズは高い収差(球面収差、コマ収差、非点収差)の補正能力を持つ。EDレンズとDSAレンズの両方の特性を持ち合わせるためレンズ枚数を大幅に削減、全長の短縮化・高性能化を可能とした。非球面レンズとして加熱成形するため、加熱/冷却を高精度にコントロールする高い製造技術が必要となる。

わずかな絞りのコントロールでボケのニュアンスを変える

赤城:カメラGPレンズ賞3年連続受賞、おめでとうございます。

安富●ありがとうございます。2年前が300mm F4、去年は12-100mm F4、今年が17mm F1.2と望遠、標準ズーム、広角と異なる分野で受賞したので驚いています。我々のED-DSAレンズをはじめとするレンズ技術を駆使して小さく収めたところが評価されたと思っています。

赤城:F1.2 PROシリーズは最初から3本セットで考えていた?

安富●はい。先行して25mmが動いて、そのあと望遠系、広角系でどのくらいの焦点距離がいいか考えながら進めています。毎回レンズを出すときは『撮影領域を広げる』ことをコンセプトにやってきていますが、広角でボケが味わえるレンズは今までなかったジャンルです。そして、さらに寄れますから。

赤城:狙いがすごくいい。必要だったレンズ。ワイドで大口径というのは、3本の中で1番開発が難しそうな気がするんですが。

長澤●そう言えると思います。簡単にいうと、やはり画角が広がる分、角度がついた光線がすごく太い状態でレンズの中に入ってきます。その収差を取りきるというのが難しい。かつ、そのためにレンズがどうしても大きくなりがちです。17mm F1.2では、その課題をED-DSAという2枚めの非球面レンズを使うことで小型化かつ高性能なものができるように開発しています。レンズの面精度をとっても、従来にできていたものではなかなか最終的な性能に合わないなど、物を作っていても難しかったです。レンズの中の調整、群の中の軸がずれると性能がぜんぜん出なくなってしまいますが、そこの部分もしっかりと調整を入れて、1つ1つの個体の性能を出るようにしています。

赤城:より気合いが入っていると。

長澤●実際にボケに効く分…球面収差の倒れの部分と傾きの部分、両方とも調整をするという、当社として初の試みをやっています。

赤城:既存の17mmF1.8で「2段も違わないじゃないですか」ってユーザーに言われたら、エンジニアの方はどうお答えになるんですか。

長澤●F1.8だと、どうしても背景をしっかりボカせません。また17mmF1.8は小型化優先で作ったものですけど、やはり持ったときの高級感とか所有する喜びは、より大口径のところで出せるものだと思うので、今回は商品化を通して、物として持つ喜びをお客さまに対して提供できたかと思っています。

赤城:ボケにはどんな種類があるんですか。

三木●大きく分けて3つあると考えています。エッジがついてしまっている『二線ボケ』、基本的に解像重視のフラットな状態である『素直なボケ』、最後は分布でいう最後がなだらかに落ちていくような『滲むボケ』です。

▲球面収差量のコントロールによってボケ味は変わる。ボケ味は輪郭の再現性により評価されることが多い。輪郭が2重にみえる2線ボケは嫌われるボケのひとつ。F1.2シリーズは輪郭が美しくにじむボケを目指した。ボケ味とシャープネスはトレードオフの関係があるので両者のバランスをとるのは難しいのだ。(赤城)

赤城:17mmF1.2のボケは輪郭部分のボケ味が美しいということが重要視された。

三木●そこがちゃんとなだらかになるように、収差をどうするかというところを設計のほうでしっかり追求していただいています。

▲開発部ではフィルム時代のOMズイコー大口径レンズの収差のボケ特性も検証。いずれも開放からボケに配慮し球面収差をコントロールしていることがわかる。先達の名玉の上に今のF1.2シリーズがあるわけだ。(赤城)

赤城:フォーサーズレンズでは広角なのにボケが大きいという新しいジャンルですが、フルサイズに対してのアドバンテージは?

三木●『滲むボケ』とは『ごくわずかにボケた』ところで生まれると考えています。被写界深度が深い分『ごくわずかにボケた』部分が多くなるので、むしろこのボケ質をアピールするにはマイクロフォーサーズのほうがいいのかなと考えています。フルサイズで、たとえば背景に何が写っているのか分からないぐらいまでボケてしまうのは、写真としてはあまり良くないケースもあるのではないかなと。

長澤●実際、17mm F1.2で1/3段とか絞ると『滲むボケ』を表現している球面収差の部分は、もう効果がなくなるんです。素直でまっすぐな球面収差が立っている状態になっています。ボケ質を楽しんでいただくというところでは開放で使っていただくのがベストですね。

赤城:僕の印象では、わずかな絞りのコントロールで、ボケのニュアンスが変えられるという感じがする。とても嬉しいですね。

*掲載した記事は月刊カメラマン2018年7月号当時のものです。

カメラグランプリとは?

写真・カメラ専門の雑誌・Web媒体の担当者の集まりであるカメラ記者クラブ(1963年9月発足、2018年4月現在10媒体が加盟)が主催し、カメラグランプリ実行委員会の運営のもと、選考委員を組織し、2017年4月1日~2018年3月31日に発売された製品から各賞を選考しています。

カメラグランプリ「大賞」は、期間内に新発売されたスチルカメラの中から、最も優れたカメラ1機種を選び表彰するものです。また、日本国内で新発売された交換レンズの中から最も優れた1本を選ぶ「レンズ賞」、一般ユーザーがWeb上の専用サイトから投票する「あなたが選ぶベストカメラ賞」(投票期間:2018年3月23日~4月12日)、カメラ記者クラブ会員が「大賞」を受賞したカメラを除くすべてのカメラと写真製品・機材を対象に、大衆性、話題性、先進性に特に優れた製品を選ぶ「カメラ記者クラブ賞」の合計4つの賞を設けています。

選考委員は、カメラ記者クラブの会員をはじめ、加盟雑誌の編集長(もしくは代表者)、カメラグランプリ実行委員が委託した外部選考委員、特別選考委員(学識経験者、カメラメカニズムライター、写真家、写真関連団体の代表等)、および特別会員のTIPA(The Technical Image Press Association:欧州を中心に16カ国30媒体が加盟する写真・映像雑誌の団体)で構成され、2018年は総勢53名が選考にあたりました。

●主催:カメラグランプリ2018実行委員会(カメラ記者クラブ)アサヒカメラ/カメラマン/Webカメラマン/CAPA/デジタルカメラマガジン/デジカメWatch/日本カメラ 風景写真/フォトコン/フォトテクニックデジタルカメラ記者クラブ