今回のテーマは『初夏の別れ』。
別れを切り出すための、僕に向ける眼差しから流れる涙。
色情報をそぎ落とし、その瞳に集中する心理を描くためにモノクロで仕上げたのが本誌7月号掲載カット。
この涙のカットには前後のストーリーがある。
本誌でも触れているが、この日のデートの流れがあり、順を追って撮影している。つまりこの日の撮影は、『デート』そのものであり、彼女の中には、「今日はお別れを言うんだ!」との意思があっての行動であり、表情だ。
待ち合わせは原宿・表参道。
いつもデートはここが待ち合わせ。いつもなら屈託のない笑顔で僕を迎えてくれるのに、この日は笑顔がない。
「行こっか…」
彼女は先に歩き始める。今日は笑わないな…と、歩くのを躊躇した僕を彼女は振り向く。
公園でもなかなか並んで歩きたがらない。
まっすぐ歩かず、右へ行ったり左へ行ったり。
僕の中にはもやもやが生まれる。駆け寄って、この後強引に手を繋いだ。
「面白かったね」と話しかけても隣にいない。
振り向くと彼女は立ち止まっていて、遠くを見ている。
「もしかして…」
考えたくない僕は、すぐに前を向いて彼女の心理をあえて探らないでいた。
「ねえ…」
見つめた彼女の瞳は何か言いたげ。
今日はなかなか目を合わせようとしなかったが、話しかけてはじっと僕を見る。
「何?」
と返すも、数秒見つめたままで、
「なんでもない…」
と、また目をそらした。
この後本誌掲載の涙のシーン。
僕が一番聞きたくなかった言葉。僕が今日、一番考えたくなかった、考えないようにしていた言葉を、彼女は小さく呟く。
別々の道を歩くことに。
そうなることなんて、出会った時は想像もできなかった。一緒にいるものだと思っていた。
後ろ姿を追う。彼女は僕の家に行く方向とは別の向きへと歩いて行った。
表情でいろいろな表現を
相手から別れを言われるのも、自分から切り出すのも、どちらにしても空気が重く感じられます。前半はいつ切り出そうかタイミングを計って、後半からは切なさや後ろめたさが混じった感情に変わっていきました。
悲しい顔、切ない表情、後ろめたい雰囲気…萩原さんにこんな感じでお願いしますと言われた時に、色々なバリエーションができるようになりたいと思いました。
(いのうえ)