では識者が思う「カッコいいカメラ」とは??
編集部:赤城さんは、レタッチなんかしませんよね? あはは。
赤城:また憶測だけでものを言う(笑)。すっげーしてますよ! 盛りまくります!
編集部:ええっ!!
赤城:普通の仕事で「撮って出し」はありえませんから。ポジフィルムの苦労を知ってますからね。そもそもJPEGでなんか一切撮らないもん。
編集部:ああ、すみませんー。でも今日一番の驚き(笑)
大門:私もJPEGは要らないですね。
諏訪:俺らとしては、JPEGはなくていい。
阿部:でもそれは、自分の好きな画とか仕事で要求される画がわかっている人の話ですよね。一般の人にはちょっとそれは難しい。
諏訪:でも最近、プロカメラマンでもJPEGオンリーの人が増えてきてるんですよ。
阿部:そうなの? 画が良くなったから?
諏訪:よくわからないですけど、変なこだわりがあるのかも。「カメラに定着した最初の画こそが俺の写真だ」みたいな(笑)
阿部:なんだよ、それ(笑)
山田:いや、それがすっごく増えてるんですよ。
阿部:そうなの?
編集部:JPEGで撮って、現場で記録メディアを渡して終わりとか。昔の、編集者にパトローネを渡していたのと同じ感覚。レタッチに見合うまでのギャラはもらっていない、って感じなのかな?
諏訪:でもそういう人に、B全サイズで広告作るからRAWで撮ってフィニッシングしたものをくださいって言ったら、まったく作れなかったりするんです。
阿部:JPEG命かー(笑)
編集部:トラディショナルな写真家の姿、とも言えますが…。
諏訪:まあ、単純にレタッチの技術がないから、JPEGで済ませてるんでしょうけど(笑)
赤城:でもそれとは別に、多くの人が関わるような広告ですと優秀なレタッチャーさんがいますからね。色合わせにしても、デザイナーに任せる方が早いし確実だから。
諏訪:まあ、そっちのほうが楽ですよね。手離れもいいですし。
赤城:お渡しだけ(笑)
山田:でもそれは、あくまで仕事での話だよね。その道のエキスパートが必要とされるレタッチ画像を作って完成させるという。
赤城:そうなりますね。
山田:俺は、趣味で写真をやっている人たちが「JPEG撮って出し」を神格化してるっていうのがすっげー嫌なんですよ。
諏訪:そこは…フジ(フイルム)のアピールのせいでもありますけどね。
山田:うん。それは多少あるかもね。
■ ■ ■
赤城:ちょっとカメラの話に戻していいですか? 僕は、根本的に美しくないカメラが嫌いなんです。
山田:それは、物としてという意味?
赤城:はい。見た目が美しくないものは使いたくない。
山田:そんなこと言ったら、今カメラを作ってる人に新しい時代をデザインで表現しようという美学を感じることは希ですね。
赤城:またすぐそういう厳しいことを言う(笑)
山田:だって、現状で美しいと思えるようなカメラある?
赤城:では言い方を変えます。ここまで趣味性に傾いたZ fcとかDfとか、PEN-Fとかありましたよね。いわゆる往年のカメラらしい見た目のやつ。その完成度とかは意見は分かれますが、僕はよくやったと思っているし、好きなんです。でも商業的には上手くいかなかった。この、あと一歩の部分で、もう一つ上の意見が聞きたいんですけど…阿部さん?
阿部:急に俺に振る?(笑)
赤城:いや、メーカーとしては努力してはいると思うので。
阿部:今のカメラのデザインって、ちょっとかっこよかったカメラの真似っこみたいなものが多いよね。俺たちは長いこと生きてるから、当然カメラもたくさん見てきている。その蓄積があるから新しいカメラを見ても、このデザインは前に失敗したやつだとか、なんでこんなことするんだよ、みたいなことが分かる。でも、それを今の若いデザイナーに要求しても無理だろうね。おそらく真剣に見てもいないだろうし。
赤城:僕がそれを強く思っているのはソニーのαなんです。何種類もあって画素数も値段もまったく違うのに、シルエットはもちろん、パッと見ても全部同じに見える。
阿部:全部一緒だよね。しかもお世辞にもカッコいいとは思えない。
赤城:正直、 新機種が出ても似た形をしていると、なんかすごくイラっとするんですよ。
阿部:ただ、ここまで延々とやってると、もう後には引けないんじゃないかな。
赤城:そうなの?
阿部:いつぞやソニーの人とも話したの。ここまでくるとバラバラのデザインでなんかできない。なにか1台のスタイリングを変えたら、新しいシリーズがまた全部そのデザインになるだろうって(笑)。もうソニーはずっとこういうカメラ作りを続けるんだろうなって思った。そう考えるとハッセルなんかはかっこいいと思うよね。
赤城:ハッセルに関しては、コンセプトもかっこいいと思っています。カメラとしては機能的に不足しているところはありますけどね。
諏訪:言っちゃった(笑)
■ ■ ■
編集部:じゃあ、具体的になんか、皆さんが思う「カッコいいカメラ」を挙げてみましょうよ。キャッチーな展開(笑)
赤城:一機種か、難しいなぁ。でもそういう意味でやっぱりライカはデザインで買ってる部分もありますね。さっきのJPEGの話でいえば、ライカのJPEGなんて「これがライカならではの色」なんて言われると困るんですが…(笑)
山田:でもさ、「ライカで撮ったJPEGこそが俺の色だ」っていう人もいっぱいいるわけですよ。
阿部:「俺はライカの申し子だ」みたいな人ね(笑)
赤城:そんなのありえないんじゃないですか、ってここで言っちゃいけないのか(笑)
山田:そう。ありえない。でも、そういう人が影響力を持ってたりもするんですよ。
赤城:怖いなあ。じゃあこれ以上言うのをやめておこう(笑)
諏訪:ライカもいるし、フジにもいっぱいいらっしゃいます。逆にシグマは、そこまでの言われ方はされていない。まあ、そもそもシグマはRAWじゃないとダメだって言われたカメラが多かったから(笑)
編集部:では諏訪さんがカッコいいと思うカメラは?
諏訪:(シグマ)fpですね。今の時代で新しい形のデザインっていうものを生み出してきてるから。使いやすい、使いにくいはまた別ですし、ファインダーが欲しいとかもあるけど、単純に単体としてのfpはよくできてると思います。
赤城:オプションとして自分に必要な人はファインダーを付けられといったところは、ハッセルの考え方と似てますよね。コンポーネント思想というか、自分の使いやすい形にできる。
諏訪:フルサイズでここまでコンパクトっていうのもデジタルの時代ならではですからね。そういう意味では僕はfpだと思いますね。
編集部:外観fpで中身がEOS R5だったらもう完璧ですねー(笑)
諏訪:個人的には(フジの)X-Pro2とかも大好きですが、外観はノスタルジックな方向ですからね。
編集部:ライカにシグマfp…。流れとしてはカメラ誌的にはフツーかも。では、大門さんのカッコいいカメラは?
大門:やっぱりライカですね。私が(パナソニック)S5から(ライカ)SL2-Sに買い替えたのは、外観に惹かれた部分も含め、操作部がすごくシンプルなことが大きいです。ボタン類が多いのは私嫌いなんですよ。あれやこれや押したり操作するのは、わたしにとってはカッコ悪いことなので。同じ理由でシグマのiシリーズのレンズもすごく気に入ってます。素材感とちょっと独特なクリック感とか。
諏訪:作りがいいですよね。
赤城:写りもあるけど、やっぱりデザインが大きいです。
編集部:ふーん。阿部さんは?
阿部:まあ、fpはもちろんカッコいいと思います。あとは、ソニーをフォローするつもりはないけど(笑)…コンパクトのRX100とかRX1はカッコいいと思う。僕は外観だけでRX100を買ったから。ポコンと出るファインダーとか、ギミックと言えばそれまでだけど、買いました。それが使いやすいかどうかは別にして(笑)
編集部:なるほど。山田さんは?
山田:僕は正直に言うと、ないですね。すごく偉そうに聞こえるので、自分で言うのも嫌なんだけど言っちゃうと…、fpをカッコいいと思えないんですよね。
編集部:おっと。
山田:fpにはポリシーがあって、それに則って形作られていった結果に対し「カッコいい」っていう言葉で表しているのだと思う。道具として理にかなっているとは思うけど、そこには使われ方とか、人が触れるものに対する配慮はまだ足りないと思うわけ。まあ、今現在のすべてのカメラはそうなんだけど。
赤城:過去にはあったんですか?
山田:理想で言えば正直ゼロなんだけど…あえて言うなら(キヤノン)T90かな。
阿部:あー、T90ね。出た時はカッコいいと思った。でも。今見るとカッコ悪いよ(笑)
山田:僕の中では、まずひとつ新しい形を作ったのがニコンFなの。で、その次がキヤノンのT90だと思ってる。
阿部:そうだね。曲面ボディの原型になってるのがT90だね。
赤城:ニコンFからT90に至るまでは、一回転換期があったと思う。でも、その後っていうのは…。
大門:タンクが出てきちゃいました(笑)
山田:あとは…残念ながら日本のデザインじゃないけど、初代の(コンタックス)RTSかな。
阿部:RTSは間違いなくカッコいいよ。
赤城:ポルシェデザインですね。
阿部:フジのカメラって、そもそも全部RTSをちっちゃくしたようなデザインだから、なんかカッコよく見える(笑)
赤城:デザイナーさんがお好きだからでしょう。
編集部:カメラオヤジはみんなそう思っています。
山田:ですから、それ以降のカメラで、コンセプトがちゃんとしてて、しかもデザインがカッコいいっていう形で成立してるカメラなんてないんじゃないかなと思う。
阿部:いや、だからさー。みんなも無理くり言わされているんですから、そんなこと言わず、ひとつぐらい挙げてよ(笑)
山田:そうだね。すいません(笑)
編集部:そもそも新しいカメラが出るたびに、まず注目するのはスタイリングですからね。
赤城:私はそれがすべてです(笑)
阿部:僕だってRX100とか無理して言ったんだから。
山田:じゃあ、あえて言うと、佇まいを含めて(ソニー)RX1だね。自分で買ったし。
阿部:そうか。山田君もRX1、RX100はカッコいいと思ってくれてたんだ(嬉)
山田:みんなライカQを褒めるけど、RX1がなかったらライカQは世に出ていないと思います。ひとつの潔さがあったし。でも、RX1を続けなかった一方で、α7をずっと同じ形で出し続けているソニーには思うところがたくさんあります。
阿部:それは僕も感じています。でも、ここまでくるとやめれないんだよ、もう。
赤城:そんなソニーに抵抗の意思を示す意味で、私はα7Cを無理やり買いましたー(笑)
山田:あ、もう一個だけあった。(パナソニック)LX100。あれはある意味、カッコいいと思う。
赤城:僕も好きです。ライカだとD-LUX7になります。
山田:だからデザインをデザインだけで語るっていうのはもちろんあるんだろうけど、そもそもこのカメラはどういう考えで作られてて、どういう風に使われるのっていうところから出発して練り上げてゆくべきだと思っているんですよ。
阿部:カメラのデザインも腕時計のデザインも難しいんですよ。そんなに大きく変えようがないから。腕時計の風防が四角いと水が入ってしまうから、どうしたって丸いのが基本となる。カメラにしてもレンズを付けるスペースが必要だから。ファインダーなくなっても、それっぽい出っ張りを付けないと売れないように、すごく狭い部分でのデザインを要求される。そう考えると、ハッセルやライカは単純にすごいと思う。
山田:ライカやハッセル、ローライの一番いい時代のカメラっていうのは、機能が形になってるよね。無駄がない。その無駄のなさをカッコいいと思えるのかな。
阿部:(フジ) X-proとかもノスタルジックデザインって言うけど、結局は距離計連動機の真似っこなんだよね。だったらライカM-Dの方が全然カッコいい。
山田:それはあるね。
阿部:シンプルっていう意味では超カッコいい。デジカメがこれでいいのかよ、って思ったりもするけど(笑)。要するにカッコいいやつはもう出来上がってて、なかなかそこを超えるようなデザインは出てこない。ロレックスやポルシェと同じ。先の人にやられちゃった感がすごい。
山田:もう昔の話なんだけど、どうすればカメラに見えるのかとか、人が持ったり、ぶら下げたり、愛玩することを前提に符号化されたものを集約して、自分なりのデザインスケッチを描いたことがあるんですよ。だからそれが自分にとってのいちばんカッコいいカメラなんです。
阿部:最初のデザインがあっても、結局思い通りにはならなんだよね。カメラバッグにしてもそう。俺、月カメで白いカメラバッグ作ったけど、あれも6割ぐらいしか満足してないのね。量産とか、実際に物を詰め込んで作っていくとなると、デザインってどんどん変わっていっちゃう。
諏訪:構想段階で出来上がっていたすごい最高のデザインがあっても、実際に発売されるプロダクトは違うから、そもそも比べちゃダメなんですよね。
阿部:そう。絶対に同じにはならない。
諏訪:あくまでも発売されていた既存のプロダクトと比較しないと。理想や空想の部分だけのものと重ねちゃうと絶対に勝てないから。
阿部:カメラショーで展示された(キヤノン)T90の原型はホントにすごかった。翼が生えたようなカメラ(笑)。当然ながら実物はそれほでもなかったけど、斬新ではあった。でも、そのT90も今見ると笑うんだよ。なんでこんな変なバランスなんだと(笑)
諏訪:俺は…別に使いやすいとは思ったけど、当時も特別カッコいいとは思わなかったですけどね。
山田:ルイジコラーニが作ったT90の元デザインって、あれはやっぱり飛びすぎてたね。
阿部:超カッコいい!
編集部:じゃあ、まとめます。つまり問題は、満場一致でソニーのα7のデザインはカッコ悪いということでOK?
諏訪:賛成です(笑)
阿部:でもさ、僕たちはカッコ悪いと思ってるんだけど、ソニーのα7が一番売れてるんだから。
編集部:世間ではカッコいいの?
阿部:世の中の人はカッコいいと思ってるのよ。
諏訪:そう。もしかしたらそれが正解なのかもしれない。
阿部:そうなの。だから俺たちがズレてるんだよ(笑)
編集部:でも。α7がカッコいいって言ってる人いる?
諏訪:俺の身の回りにはいないですけど…。
編集部:でしょう。じゃ、いいじゃん。
赤城:こないだ桃ちゃん(桃井一至氏)が来たときにさ。「赤城さんはすぐデザインとか見てくれとかを言うけど、僕は使ってナンボなので、見た目は二の次ですー」って、たしなめられちゃった(笑)。でも、それだと話がすぐに終わっちゃうじゃない。
編集部:あくまで「仕事道具だし、撮ってるとき見えないしー」とか(笑)
赤城:言ってたね。仕事で使うんだから、そんなの別にどうでもいいじゃん、って。僕は悪いけどそこは絶対に譲れませんから! なんせ「CAPA」で「カメラは見た目が100パーセント」という連載を持っておりますので(笑)
阿部:でもみんな、ソニーだからと思って買ってる人もたくさんいるんじゃない? もっと言えばカメラをよく知らないから、それがカッコいいか悪いかも分からない。
諏訪:カメラといえば、あの(α7)形がデフォルトだろうって。
赤城:そうかなあ。
阿部:だってカッコいい、悪いって比較論だから。ラーメンにしても、初めてラーメン食べた人にはそれがうまいかマズいか分からないじゃん。
大門:あー。でもそれはありますね。
阿部:カメラってこういうもんだと思って買ってるんじゃないの?
山田:でも、少なくも道具として洗練されてるとは思えないから。
阿部:だからさ。そんなところにないんだって。初めて買うんだからさ。
諏訪:洗練されてるかどうかは、それこそ比べないと分からないでしょうね。でも、ルッキズムの部分で他社との検討はしないのかな。
阿部:しないんだよ。だってα7を間近で見たことがあったら、そこには行かないから(笑)
赤城:あはは(笑)。面白い! いやいや、困っちゃったなー。
山田:これはもう、業界全体の悪口になっちゃうけど。色んな意味でカメラってレベルが下がってると思うんですよ。
阿部:う~ん、そうなっちゃよね。
山田:もちろん情熱を持ってやっている人もたくさんいると思う。でも、それと同じくらい、それ以上に、こんなもんじゃない? って思って作ってる人もたくさんいるような気がするなあ。
阿部:ここ何年か前から、カメラメーカーって僕たちは思ってても、入社してくる人はそう思ってないんだよね。カメラ部門に回されちゃいました、っていう人もいるし。そういう人たちが物を作ってるわけだから。
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