タムロン 70-300mm F/4.5-6.3 Di Ⅲ RXD 主な仕様
●焦点距離:70-300mm
●最短撮影距離:0.8m(W)/1.5m(T)
●最大撮影倍率:1:9.4(W)/1:5.1(T)
●レンズ構成:10群15枚
●最小絞り:F22-32
●絞り羽枚数:7枚
●フィルターサイズ:67mm
●大きさ・重さ:φ77×150.3mm・580g
●付属品:フード
傑作が続く、タムロン得意のズームレンジ!
●70mm
●300mm
●300mmで月を撮影
期待が募る、と記述したことには理由がある。タムロンの70-300mmと言えば傑作が多いからだ。強力な手ブレ補正だったり、卓越した光学性能だったり、接写性の高さといったプラスαの性格を有しつつも手の届く価格で、写真文化の裾野を広げることに一役買っていたと思っている。
本レンズもそうしたプラスαの要素を持っている。フルサイズ用300mmクラスの望遠ズームとしては世界最小・最軽量をアピール。「気軽に楽しむ、望遠300mm」というコンセプトを掲げている。
ニコンZ用はソニー用と比べて長さが少し伸びて150.3mm、重量は580gとなっているが、まだ十分に「軽い」と表現できうるサイズに収まっている。このサイズ感はほぼ500ml前後のペットボトルと等しいので、気になる人はカメラバッグへの収納性などをチェックしてみるといいだろう。
この魅力的なサイズ感を実現したのは、テレ側の開放F値がF6.3とやや暗いこと(と言ってもF5.6から1/3段暗いだけなのだが)、光学手ブレ補正ユニット(タムロンで言うところのVC)を持たないことで実現できたと思われる。
ちなみにAPS-Cフォーマット機と組み合わせれば105-450mm相当の画角をカバーできるレンズとなるが、APS-CのZはボディ内手ブレ補正を持たないので、令和の時代としては運用にはそれなりに工夫が必要だろう。
ピントリングに不満。フードはニコン純正よりもはるかに上質!
ズームリングの操作感は行きと帰りでややフィーリングが異なり、スムースとは言い難い。ソニーEマウント版の希望小売価格7万7000円(税込)からすると不満はないが、Zマウント版の9万3500円(税込)で考えるとギリギリ及第点という気がしなくもない。
また、これはファームアップで解決する可能性があるが、ピントリングをゆっくり操作するとMFが反応しないことが気になった。うっかり操作を防ぐという意味では丁度いいのかも知れないが、筆者的には扱い難く感じた。
外観はシンプルだが、フードの剛性感や着脱のしやすさなどはニコン純正Zレンズ以上に優れているポイント。完全に嫌味だが、ZレンズのフードをあのクオリティでOKだと承認した人の顔が見てみたいし、敢えてあのようにしたならその意図を教えて欲しい。
AF速度は実用十分。特に速いとも遅いとも感じない辺りの速度とレスポンスで、どちらかと言えば快適かな? というレベル。
組み合わせたボディはZ 7Ⅱだったが、猫に対しては問題なく…というかカメラなりの動物AFはしっかりと動作していた。手ブレ補正についても全く問題なく、純正レンズ感覚で撮影を楽しむことができた。
描写性能はお値段以上。歴代に比べ寄れなくなったのが残念…。
描写性能はかなり高い。Eマウント版をテストした時にも描写性能の高さについては感じていたが、絵作りの違いなのかソニーで使うよりも写りがよりシャープで、ひと皮剥けたようなキレの良さが印象的だった。Z 7Ⅱの45MPセンサーに対しても全く負けておらず、絞り開放からガシガシ使えるのも注目点のひとつだろう。
明暗比の大きなシーンでハイライトのエッジ部分にも色づきなどなく、逆光にもかなり強い。気になったのは接写性が低いこと。これまでのタムロンレンズといえば、タガが外れたように寄れるレンズがほとんどだったが、本レンズは例外的に寄れず、ワイド側で最短0.8m(最大倍率約0.11倍)、テレ端で1.5m(最大倍率約0.2倍)と不満が残った。
代えがたい機動力。「純正至上主義」の方も使ってみて!
総じて、ウットリと見惚れてしまうような描写性能ではないけれど、絞り開放からでも十分にシャープでキレが良く、お値段以上の写りであることは間違いない。Zレンズの純正にはない70-300mmという扱いやすいズームレンジをカバーするレンズであること、比較的手頃であることなど、訴求力のあるレンズという印象を持った。
こういったレンズがあることでZユーザーも撮影領域も広がると思うし、純正レンズの性能が高いことは重々承知だけど、高すぎて手が出ないという人もいると思うので、こういったレンズの登場はニコンにとっても良いことだろう。
というか、これ以上のレンズを純正でリリースするのはかなりハードルの高い仕事になると思われるし、かりに登場したとしてもコスパで本レンズを超えるのは難しそうだ。
こうした小型望遠ズームの存在は、スペック的には注目度するところが少ないけれど、実際に使ってみるとその魅力に気付かされるシーンは多い。特にF2.8ズームなどの高性能レンズを使っている人は、重量とサイズが機動力に与える影響を身体で覚えることができると思うので、食わず嫌いせずに試してみて欲しい。