写真の新たな媒体、SNS( ソーシャル・ネットワーク・サービス)この連載では写真家・中野幸英さんが、SNS から生まれた新たな文法= リテラシーを実際に投稿者と会って検証・共有していきます。今回は瞳さん(20歳・学生)をご紹介します。この記事は月刊カメラマンに掲載されたものです。

瞳さんのSNSはこちらから!

カメラ女子とガーリーフォト

待ち合わせに来た瞳さんは、SNS の投稿から予想したよりもしっかりと話す社交的な学生だった。新宿御苑で実際に撮影するところを見せてもらおうと思い、近くのカフェに寄って話を伺った。

向かいに座った瞳さんは、コンタックスAria を取り出しコダックのカラーネガを手慣れた様子で装填する。Ariaは自分が学生の頃に発売された女性をターゲットにしたカメラだ。久しぶりすぎて逆に新鮮なこの光景に驚きが隠せない。

フィルムカメラが流行っている。自分も未だ作品などはフィルムで撮ることはあるが、2年ほど前から「写ルンです」などフィルムが流行っている等とは聞いていても、実際に街でフィルムカメラを見かけることはここ最近なかった。

瞳さんはAria だけでなく、オリンパスのTRIP35、PENEE3、OM-1、キヤノン オートボーイなど、生まれる前に発売された中古カメラを使う。フォトCD に焼き付ける現像サービスにフィルムを郵送し、返送された画像を選んでSNSにアップする。

この瞳さんのようなカメラ女子の人気で、コンタックス T2 やニコンFM2、コニカのBig-mini など、シンプルで小型の中古が値上がりしている。カメラ事情は、20 年前にガーリーフォトと呼ばれた女性による写真の流行と何ら変わらない。

ただ同じフィルムでの流行といっても、SNS のある今と、あの時カラーコピーなどで展示されていた流行とは写真や被写体、見せ方が違っている。

東京が海みたいだ!

画像: 東京が海みたいだ!

最初に瞳さんのインスタを見た時、青が目立つことが良い意味で気になった。似たような風景や友人で構成されたカメラ女子アカウントをインスタでは多く見ることができる。さらに多くのフォロワーを持つ岩倉しおりさんに影響されたと瞳さんは話す。

確かに彼女のスタイルや感覚的な撮り方には、タッチの似た実際のフォロワーも多い。だが瞳さんのサムネイルは見渡した時に海・空・色味‥「青」の印象が強く残った。

瞳さんはインスタで出会った友人などをモデルに撮影して、フォロワーを増やしていく。奥山由之さんの作品が好き、友達と撮影に行くのが好き。古いカメラへの愛着、そして何より「建物がなく元気になれる海が好き」だ。そのストレートな好きな世界への没入自体が人を引き寄せている。

上の3つの写真のうち右の写真は「東京が海みたいだ!」とつぶやいたtwitter での投稿で、8500 件も「いいね!」がついた。建物が波のように光るこの写真がバズったのは、単に海のように見えるという作為ではなく、好きな海の青が見えた喜びの感覚が伝わってくるからだろう。

難しいリアクションは必要ない。文句なく「いいね!」を押せる写真と関係。今のカメラ女子と20 年前の流行の最大の違いがこのような軽快な感覚の往復だ。

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