高性能ファインダー、雨にも雪にも氷点下の寒さにも負けない卓越した耐環境性能、最高ISO感度819200、有効画素数約2432万画素をはじめコンパクトなボディに詰め込まれた数々の高機能…。フラッグシップであるフルサイズ機K-1、そしてAPS-C上位機であるK-3 Ⅱと比べても遜色がないKPはどのように作られたのか? 開発者の情熱と意図に内田ユキオが迫る! 前編では主にKPが誕生するいきさつ、ユーザーインターフェイス(UI)、画質に関して聞く!
画像: www.ricoh-imaging.co.jp
www.ricoh-imaging.co.jp

ペンタックスKP 注目ポイント

●小型・薄型設計/プレミアムデザイン。日常の外出はもちろん、旅行やアウトドア・アクティビティでも軽快な撮影が楽しめる。
●新CMOSイメージセンサーと画像処理エンジンPRIME IV & アクセラレーターユニットによるノイズ処理により、ISO感度設定の上限をISO 819200と大幅に拡大。
●5軸・5段のボディ内手ブレ補正機構SR IIや交換式グリップをはじめとする様々な機能を搭載。
●防塵・防滴、耐寒性能を備え、アウトドアでも信頼性を高めている。

ペンタックスKP 主な仕様

●センサーサイズ:APS-C(約23.5×15.6mm)●有効画素数:約2432万画素●画像処理エンジン:PRIME IV ●ISO感度(拡張):100-819200●最高連写速度:約7.0コマ/秒●シャッター速度:1/6000秒~30秒、バルブ●AF測距点(クロス測距点): 27点(中央25点クロス)●AEシステム(測光センサー分割数): 8.6万画素RGBセンサーによるTTL開放測光●ファインダー視野率/倍率:約100%/0.95倍●動画記録:フルHD30p●液晶モニター: 3.0型 約92.1万ドット●記録メディア:SD、SDHC、SDXC(UHS-1対応)●大きさ(W×H×D):約131.5×101.0×76.0mm●本体重さ(本体のみ):約703g

画像: 写真左から岡本鉄兵氏(UI担当)、寺内正和氏(画質担当)、大久保恵慈氏(企画担当)、インタビュアー・内田ユキオ、羽賀正明氏(デザイン担当)、田口一郎氏(メカ担当)、岩崎徹也氏(レンズ企画担当)

写真左から岡本鉄兵氏(UI担当)、寺内正和氏(画質担当)、大久保恵慈氏(企画担当)、インタビュアー・内田ユキオ、羽賀正明氏(デザイン担当)、田口一郎氏(メカ担当)、岩崎徹也氏(レンズ企画担当)

「内蔵フラッシュは最後に決まりました」
田口一郎 氏(メカ担当)

画像: 「内蔵フラッシュは最後に決まりました」 田口一郎 氏(メカ担当)

●推しレンズ
HD PENTAX-DA 20-40mmF2.8-4ED Limited DC WR
smc PENTAX-DA★ 55mmF1.4 SDM

KPの誕生まで

【内田】まずはKPが生まれるまでのプロセスを教えてください。
【大久保】アイデアとしてはまず、10年くらい前からペンタックスSPのデジタル版をと考えていました。
【内田】フィルム時代の名機ですよね。
【大久保】はい。さらにLimitedレンズに
フィットするボディがほしいな、と。
【内田】当時で言うと、K-7やK-5の頃ですか?
【大久保】K-7やK-5はけっこうボディが大きめだったので、コンパクトなLimitedレンズにちょうど合うカメラがなかった。そして1年前にフルサイズのK-1を出しました。そこで次はどうしようか、という議論がありまして…。
【内田】コンパクトなモデルでいこうと?
【大久保】そうですね。K-1というフラッグシップが出たので、次はスペックだけを追うカメラではなくて、いろんなシーンに対応できるようなカメラを作ろうと。
【内田】KPには様々な要素があると思うのですが、優先順位としてまずLimitedレンズとのマッチングがあったと。
【大久保】小型、高品位のデザインがしっかりとしたカメラ。そこが起点です。
【内田】スペックとかを抑えれば、もうワンクラス下げることもできたと思います。極端に言えば、デザインだけ工夫してミラーレスにすることもできただろうし(笑)。でも、実際には上位機とほぼ変わらぬ性能を持っていますね。ここだけはKPで守ろうとした部分を教えてください。
【大久保】今までずっと一眼レフでやってきて、光学ファインダーにはこだわりがありますから。ミラーレスというのは考えてもいませんでした(笑)
【内田】まずは一眼レフありき、だった。
【大久保】先ほど、スペックにこだわらないと言いましたが、そうはいっても数値的には上のほうがいいだろうと。ただ第一にあるのはかっこよくて、ちっちゃくて、いつも持って歩けるようなカメラ。まずはそこが第一です。そして上位クラスとしてちゃんと使えるスペックもある。本当に良いカメラですね(笑)
【内田】小型軽量ということで、マーケットはかなり意識しましたか?
【大久保】確かに小さくて軽いカメラというのはマーケットにたくさんあります。でも小さくて高品位な一眼レフはないと見ていました。ちゃんとしたペンタプリズムを使ったカメラとかですね。
【内田】一眼レフですと、ミラーボックスとペンタプリズムがある限りダウンサイジングはかなり大変だと思います。KPでは小型化のため、なにを犠牲にしましたか?
【大久保】現実的に検討した結果、まずは表示パネルですよね。
【内田】上(面部)の液晶パネル?
大久保 はい。ありません。今までの価値でいくと、高級一眼レフには必要とされていましたが。
【内田】高さに関してはほぼ限界があると思いますが、次に詰めるとすれば薄さですか? それとも横幅ですか?
【大久保】今回は薄さと高さ両方です。それでもフランジバックはどうしようもありませんし、ペンタプリズムをしっかり作らないといけないので高さも限りがある。なんとか昔の銀塩カメラに近づけようと努力しました。
【内田】もっと極端に、たとえば内蔵フラッシュを取ってしまうとか、チルトは捨てるとかそういう考えはなかったですか?
【田口】実は最初の段階ではフラッシュはなかったんですよね。この絵(初期のイメージスケッチ)でもまだないんじゃないかな。
【羽賀】フラッシュありなし、両方とも検討しましたね。
【大久保】フラッシュを入れても、ペンタックスならではのとんがり頭(ペンタ部)は残せたし、現実的な要望もあったので。
【田口】K-3Ⅱではフラッシュを取ったのですが、やはりフラッシュはほしいという要望とかもあったので…。
【内田】とくにKPみたいにいつも持っているカメラならあった方が便利、ということですよね。
【田口】おっしゃる通りです。
【内田】オールインワンでいろんな対応、と言う意味では僕も必要だと思います。
【田口】同じくチルト(液晶)も要望が強かったので採用しました。
【内田】辛辣なというか嫌味な目でみると、一眼レフで光学を大事にしていると言っておきながら、一方では液晶モニターとか電子シャッターを積んでいたりする。その辺もやっぱりユーザーからの希望で仕方がないということですか?
【大久保】そこはユーザーからリクエストですから。ウチの理想だけを押しつけるのは論外です。
【田口】フラッシュに関しては、ワイヤレスを使いたいという要望もありました。
【内田】なるほど。トリガーとして使えれば、多灯シンクロとかで便利ですからね。
【田口】内蔵ストロボがあったほうがK-1のサブ機としても、便利に使用できますから。

「スマートファンクションにはアウトドアモニターを!」
岡本鉄兵 氏(UI担当)

画像: 「スマートファンクションにはアウトドアモニターを!」 岡本鉄兵 氏(UI担当)

●推しレンズ
HD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limited
HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited

UI(ユーザーインターフェイス)

【内田】岡本さんはUI(ユーザーインターフェイス)の担当ということで。ペンタックスの場合のUIは、どこまでを担当されるのですか?
【岡本】まずはどういう機能を入れるか、そしてその表示や操作方法までですね。ユーザーからみたシステムの表面的な振舞い全般です。
【内田】取説(取扱説明書)まで管理しますか?
【岡本】それはまた別ですけれど、取説のチェックの依頼はきます。
【内田】この小さなKPにUIを入れていく上で、一番苦労した部分はどこですか?
【岡本】グリップ回りの処理ですね。従来のKシリーズと違ってグリップがせり出していない形状ですから。ここにスマートファンクションを入れるにはどうしても操作部材の数が足りないため、かなり時間をかけて議論しました。
【内田】結果的には、ひとつのボタンに複数の機能を折り込むかたちでクリアしていったのか、それともなにかを省いたのですか?
【岡本】最終的には、ボタンカスタマイズに加え、スマートファンクションそのものをカスタマイズできるようにすることで吸収しました。K-1のスマートファンクションは決め打ちの機能だったのですが、KPでは用途に応じた使い方が選べます。
【内田】なるほど。カスタマイズ前提で考えれば便利ですよね。でも、もっと左手に役割を与えるような考えはなかったのですか? というのも、KPはデフォルトだと絞りと露出補正に同じダイヤルを使いますよね。露出補正のボタンを押しているつもりでも押しが弱くて、絞りが動いていることがたまにあったので…。ペンタックスのカメラは左手がほとんどフリーになってしまうのはいいことでもあるけど、思い切って左手を使わせる考えもありかな、と。
【岡本】まず前提となるのが、従来のKシリーズのユーザーさんです。先ほど田口からもありましたが、K-1のサブ機なのに使いか方がまったく違うというようなことは避けました。
【内田】従来からのユーザーなら取説なしでも使えるぐらいに、ということですよね。
【岡本】そこがまずベースです。ただしKPでのスマートファンクションの活用はこれからもご提案させていただきます。また、先ほどの左手のフリーということに関してですけど、それは最初から狙っています。
【内田】左手はホールディングだけっていう考え方ですかね。
【岡本】はい。左手はレンズを支えることンドで基本の操作ができる、というのは一貫した流れでもありますから。
【内田】デザインや重量バランスとの関係かもしれませんが、僕はKPを縦位置で構えたときの方が、妙に落ち着くんです(笑)。なぜなんでしょうか? あ、横が構えづらいっていう意味ではないですよ。
【羽賀】ペンタックスのカメラは、縦位置で構えた際に、なるべく左手が吊り金具とかに邪魔されないような方向性で考えています。だからどのカメラでも、縦位置は他社のカメラより撮りやすいと思います。
【内田】嫌な感じがないまま縦で構えられますよね。
【羽賀】ありがとうございます。
【内田】カスタム設定で、ペンタックスユーザーだったらこれはお約束、みたいな提案はありますか? 岡本さん自身のカスタマイズでもかまいません。
【岡本】私個人では、まずスマートファンクションにアウトドアモニター(液晶モニターの輝度変更)を割り当てています。外に持ち出して撮ることが多いですから。さらに露出補正とISO感度も。こうすれば、先ほど内田さんが仰っていた露出補正も直接ダイヤルで変えられるようになります。
【内田】なるほど。
【岡本】あるいはマニュアルとかバルブをよく使うようでしたら、ISO感度に当てるのも便利だと思います。前後のダイヤルを絞りとシャッター速度、もう1つのダイヤルでISO感度という形ですね。
【内田】典型的なマニュアル露出機になりますね。
【岡本】ボタンカスタマイズに関しては、Fx1に測距点移動を配置するのもお薦めです。さらにハイパーマニュアル用にFx2をAEロックに割り振るとか。先ほどスマートファンクションのダイヤルに露出補正を割り当てるといったのですが、その際にFx3にISO感度を割り当てれば、K-1ライクな形になります。あとは…カスタムファンクション(C1メニュー)の3.測光作動時間を4番の「継続」にしていただくと、撮影後も画面が消えずにステータススクリーンが表示されます。
【内田】従来からのKシリーズユーザーなら、限りなく仕様を近づけられる、ということですね。でも、KPは多機能だから仕方ないのかもしれませんが、かなり深い階層に埋もれているものもありますよね?
【大久保】はい。そこで、ペンタックスを初めて使われる方には、事前にプリセットされた4つのユーザーモードもお勧めしています。。
【内田】HDRとか天体撮影用にあらかじめセッティングされたモードですね。ビッシリと並んだパラメーターもすべて最適化されいるという(笑)
【大久保】もちろん、ユーザーさんの手で微調整も可能です。
【内田】ただ、この壮絶なカスタム量にはやっぱり唖然というか、圧倒されるというか。正直、自分が今、正しい状態で使えているんだろうかといった、ジレンマみたいなものが少しあるんですよ。
【大久保】使い方や設定の方法、その入り口もひとつではない、というのがこのカメラの特徴だと思っています。正解はひとつではないし、絶対にこう使ってくださいというのもない、と。
【内田】KPはユーザーを限定しない、というのは分かりました。が、KPを選んでくれた人に向けて、こういうワークフローで楽しむのをメーカーとしては提案したい、というものはありますか?
【大久保】ペンタックスはボディ内RAW現像がかなり充実しています。さらにKPはいつも持って歩けるカメラということで、ぜひ旅先でRAWで撮ってもらってそのまま現像、というのをご提案したいです。
【内田】夜、宿に戻ってきて、今日撮った写真を見直しながら現像、という?
【寺内】はい。もちろんJPEGでガンガン撮っていただいてもかまいません。ですが、ボディ内RAW現像ができるひとつの大きなメリットとして、ひとつの画像に対して撮り直しをしなくてもどんどん様々な色味に変えられるのがあります。さらにカスタムイメージもかなり充実しておりますし。最終的にはそこから自分のスタイルというものを見つけ出していただけたら、と思います。

「高感度の改善が多くの部分に波及しています」
寺内正和 氏(画質担当)

画像: 「高感度の改善が多くの部分に波及しています」 寺内正和 氏(画質担当)

●推しレンズ
HD PENTAX-DA 35mmF2.8 Macro Limited
smcPENTAX DA 15mmF4ED AL Limited
HD PENTAX-DA 70mmF2.4 Limited

画質

【内田】この流れで画質の話に移らせていただきます。まず、カタログ的なアピールとすると、どうしても感度の部分となります。数値で大きく変わっていますから。ここまでの高感度を実現できた理由とか。
【寺内】センサーも新しくなり、画像処理もPRIME Ⅳとアクセレーターユニットという新しい組み合わせになったので、感度というものにどこまで挑戦できるのか、というのがありました。実際にISO感度80万という目標があり、そこに向けてのチューニングです。ただし80万という数字は分かりやすいというだけで、実際にはそこに至るまでの途中の感度の改善、つまり画質を重視しています。
【内田】新センサーと、新しい画像処理を得ての追い込みとかチューニングが高感度とノイズの少なさに繋がったという感じですか?
【寺内】そうですね。何かが欠けても今回のものはできなかったと思います。すべての条件が揃ったというものが一番大きくて。
【内田】一般的にはセンサーとプロセッサーが変わると、絵づくりに影響が出ることが多いと思うんですけれども。色に関しては完全に踏襲しているっていうか、従来のペンタックスの色を引き継いでいます。特に具体的になにかを変えたという部分は?
【寺内】色とかカスタムイメージは、すべての機種で統一しようというのがありますので、従来からお使いのユーザーさんでも納得していただけると思います。単純に画質に影響を与えるノイズ等を減らしました。
【内田】ズバッと言い切るのは大変かもしれないですけれども、正直、常用感度ってどこだと思っていますか?
【大久保】いや、この回答は非常に難しいですね(笑)
【内田】でもデフォルトのときのISOオートにも感度の上限とかもありますし…。
【大久保】その流れでいくと、今回はISO3200から6400に上げてはいます。ただ実際にプロの方や社内メンバーにい
ろいろ使ってもらったところ、まあ、ISO12800くらいまではいけるんじゃないか、と。でも、ただやっぱり人によってどうしても変わっちゃうので、メーカーとしてこれっていうのはちょっと言えませんね(笑)
【内田】僕個人としては、感度って最初の障壁がまずあって、その先に区別がつくにここから先は使えない、あくまで予備の範囲となります。話を戻しますが、高感度を改善することで、他の機能にも良い影響が出ていることはありますか?
【寺内】当然ながら低感度も改善されていますので、全体的な画質は底上げされています。機能で申しますと、モーションブラケットや被写界深度ブラケットですね。機能上、どうしても感度を上げざるを得ないというところがありますから。これらの機能がしっかり使えてくるということです。
【内田】自由度が増すということですね。オートホワイトバランスの精度も上がっていますよね?
【寺内】オートホワイトバランスとかは、機種ごとに改善していますので、どんどん良くなっています。高感度の話に戻りますが、高感度の性能が上がった分、高感度でのホワイトバランスの安定性にも繋がっています。
【内田】なるほど。

後編ではデザイン、レンズ、この先の展開などについて聞く!

内田ユキオ

画像: 内田ユキオ

公務員を経てフリーフォトグラファーに。自称「最後の文系写真家」。モノクロのスナップに定評があり、ニコンサロン、富士フォトサロンなどで個展を開催。本誌をはじめ、新聞、雑誌に寄稿し、写真教室の講師など精力的に活躍中。主な著書には「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。

*本記事は2017年4月に発売された弊社ムック「全域スナップシューター ペンタックスKP オーナーズブック」より抜粋したもので、開発者の所属などは当時のままです。

This article is a sponsored article by
''.