月刊カメラマン誌で創刊号より連載されている企画「カメラマン最前線」。編集部が今、最も注目し、期待する写真家を取り上げるものだ。

現在、ライカそごう横浜店にて写真展「PORTGAL2016」を開催中(2017年7月中旬まで)、そして "Al-Andalus"の写真展がライカ阪急うめだ店で行われている写真家・大門美奈さんを紹介する。今回はその後編。2017年7月2017年6月号より。
■取材・文:石井健次 ■状況撮影:本人提供/大門正明/カメラマン編集部

画像: 「柔らかな愛情表現と絶妙の距離感」
「カメラマン最前線」大門美奈さん(後編)

PROFILE 大門 美奈 [ MINA DAIMON ]
横浜市出身。リコーフォトギャラリーRING CUBEの公募展をきっかけに写真家として活動を始める。キヤノンフォトグラファーズセッションファイナリスト。主な写真展「Portugal」(リコーフォトギャラリーRING CUBE)など。写真集に「Al-Andalus」(桜花出版)がある。

日常という愛情物語。箱庭、小花、友愛夫婦

茅ヶ崎の海風が和らぐのを待つあいだ、美奈さんの自宅で「箱庭」を撮影した。リスボンも、ポルトガルも美奈さんにとっては、海外で織り上げる非日常の世界である。そこに住む人々には日常の暮らしの風景だが、美奈さんには非日常のスナップ写真である。

画像: ▲大門さんのライフワークである作品「箱庭」より。■シグマdp3 Quattro 絞り優先AE(F9.0 1/13秒) WB:オート ISO160

▲大門さんのライフワークである作品「箱庭」より。■シグマdp3 Quattro 絞り優先AE(F9.0 1/13秒) WB:オート ISO160

だが、ここには美奈さんの日常がある。その日常を象徴しているのが、美奈さんの作るお弁当である。そのお弁当は、美奈さんのひとつの小さな世界「箱庭」となる。そして「箱庭」は、カメラの前でひとつの作品世界になる。その撮影風景を、今回初公開してもらった。

画像: ▲ビールを時々飲みながら「箱庭」を準備(調理)中の大門さん。とても楽しそうだ。

▲ビールを時々飲みながら「箱庭」を準備(調理)中の大門さん。とても楽しそうだ。

いわゆるヤンママがつくるキャラ弁とは違う。オーソドックスなお弁当である。美奈さんの小さな世界「箱庭」は、こんなふうに生まれるのだ。寝る前のシミュレーションから「箱庭」は始まる。一段目の弁当箱に炊き立てのご飯をつめる。

ゴマをふり、漬物を隅に添える。葉物はたっぷりのお湯でゆがいて、和えものに。前の日の夜から下ごしらえをしていた具材を料理し、二段目のお弁当箱につめる。

弁当箱に合わせて大きさ、かたちをそろえる。そこに、美奈さんの「わたしだけの庭」が生まれる。料理をしている美奈さんは写真家である前に、料理好きの主婦の顔になる。料理に手抜きをしない。だが、そんなときでも、通常の主婦とは違ったところがひとつある。

それは料理の合間にお酒を飲むことだ。この日も玉子焼きがきれいにできると、一服ハートランドビールを口に運んだ。

一見するとキッチンドランカーのようだが、美奈さんにとっては、ビール瓶の1本、2本は水替わりといったところか。ちなみにこの日のご飯は筍ご飯だった。

画像: ▲この日の「箱庭」を撮影中の大門さん。

▲この日の「箱庭」を撮影中の大門さん。

いつものように、きれいに二段のお弁当箱につめられた「箱庭」が完成した。この「箱庭」はどうするの? 勤めから帰宅した旦那さんが食するという。何ともうらやましいことではないか。

美奈さんの愛するものは「箱庭」、「箱庭」に舌鼓を打つ旦那さんのほかに、小花ちゃんがいる。小花ちゃんは愛猫である。

小花ちゃんも美奈さんの写真の主役を担っている。酒瓶と小花ちゃん、酒瓶と並んでポーズをとる小花ちゃんは、飼い主に似て酒豪のように見えてくるから不思議である。

画像: ▲大門さんが一時期お好みだったビール「インドの青鬼」を積み上げたところ、狙いどおりの位置に小花さんが顔を覗かせてくれた作品。 ■キヤノンEOS 6D タムロンSP45mm F1.8Di VC USD 絞り優先AE(F3.2)WB:オート ISO3200

▲大門さんが一時期お好みだったビール「インドの青鬼」を積み上げたところ、狙いどおりの位置に小花さんが顔を覗かせてくれた作品。
■キヤノンEOS 6D タムロンSP45mm F1.8Di VC USD 絞り優先AE(F3.2)WB:オート ISO3200

美奈さんの海外のスナップを、筆者(石井)なりに絶妙の「距離感」という表現をさせてもらった。美奈さんの住まいの暮らしぶりにも、絶妙の距離感が育まれているようだった。

まず二つ並んだ夫婦のパソコンの空き具合が何ともいえない距離感だった。近すぎず、離れすぎず夫婦の会話が聞こえてくるようだった。

絵に描いたような友愛夫婦の暮らしの図といったところなのだが、ここに至るまで美奈さんは辛い経験をしてきた。生きることの厳しい現実から逃げず、向き合ってきた。そのことにここでは触れない。だからこそ、現在の暮らしを大切しているのだろう。

画像: ▲和服で撮影中の大門さん。和装とライカは意外とマッチングしている。撮影はご主人の正明さん。

▲和服で撮影中の大門さん。和装とライカは意外とマッチングしている。撮影はご主人の正明さん。

夫婦二人で飲む酒は、そこに小花ちゃんも参加しているのだろうが、何よりも美奈さんの写真の原動力になっているのではないか。旦那さんの正明さんも写真を撮る。

その実力は夫婦二人の写真展の開催が実証している。美奈さんの写真の最良の理解者であり、手放しでその実力を認めているのが旦那さんである。

海外、箱庭、小花ちゃんをつなぐ作品世界観は、相手への柔らかな愛情である。そしてそこに奥ゆかしく美奈さんのナルシズムも、ちょっぴりふりかけられているようだ。(了)

大門さんの写真展「PORTUGAL 2016」は、ライカそごう横浜店にて開催中!

画像: minadaimon.blogspot.jp
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現在、ライカそごう横浜店にて大門さんの写真展「PORTGAL2016」が開催中(2017年7月中旬まで)。

6月よりライカ阪急うめだ店で写真展”Al-Andalus"も開催中!

画像: 写真提供:ライカカメラジャパン minadaimon.blogspot.jp

写真提供:ライカカメラジャパン

minadaimon.blogspot.jp

大門さんが、2014年に写真集とした発表したスペイン アンダルシア地方を撮影したシリーズ "Al-Andalus"の写真展がライカ阪急うめだ店で開催中だ(展示期間は2017年11月までを予定)。

大門美奈さんの主な撮影機材

画像: 大門美奈さんの主な撮影機材

■ カメラ:ライカM(Typ240)ズミルックス M f1.4/50㎜、ライカQ(Typ116)、ライカMモノクローム ズミクロン-M f 2/50㎜、シグマDP3 Quattr o、キヤノンEOS 6D
■ レンズ(EOS 6D用):シグマ50㎜F1.4 DG HSM Art、同70-300㎜F4-5.6 DG MACRO、同150-600㎜F5-6.3 DG OS HSM コンテンポラリーなど

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